ジョニ・ミッチェル 『逃避行』

逃避行
ここのところ'70年代のジョニのアルバムを何枚か聴いているのだが、ベストはこの1枚だなと実感。そういえば彼女のHPのファンサイトでの投票でもこのアルバムが一番票数集めていた。ジャケットにあるように黒ずくめのジョニのポートレイトからして印象的だ。ライナーノートにはこの服装のままスケートをするジョニの面白いショットが数枚載っていた。この服装はまさしく「Black Crow」そのままで、歌にあるように自ら黒いカラスに見立てているのだろう。アルバムはウェストコーストで録音されたようで、長い旅の途中の断片を言葉にしたような曲が多い。当時恋愛に疲れ失意のままイーストからウェストへ移ったジョニが旅の途中での心象風景をスケッチしてできた曲を中心にまとめたものらしい。アルバムのコンセプトはまさしく「逃避行」であり「途上にて」という雰囲気だ。
Coyote」「Hejira」「Black Crow」の三曲が一番のお気に入りだ。特に「Hejira」は素晴らしい。このアルバムからジャコ・パストリアスが参加するようになったようだけど、「Hejira」での彼のうねり感のあるホーンライクなベースは見事という他ないな。ジョニのセミアコとパーカッション(たぶんドン・アライアスだろうか)とジャコのベースだけの構成でしんみりと聴かせるてくれる。
ジャコ・パストリアスは30代で早世した天才ベーシストといわれる。ホーンライクで情感あふれる演奏はなんとなく同じベーシストで夭折したスコット・ラファロを連想させる。ラファロは25歳で自動車事故で死んだ。あの有名な日曜日のビレッジ・ヴァンガードでの好演からほど近い日だったとか。彼が存命で'70年代を迎えていたらいったいどんなベーシストになったんだろう、ひょっとしたらジャコとシンクロすることなんかもあったのではなどと意味もなく想像してしまう。
ちなみジャコはナイトクラブのガードマンに殴られて死んだらしい。それもフロリダでサンタナのライブに飛び入りしようとして追い出され、失意で訪れたナイトクラグで暴れたためとか。もうボロボロの状態だったんだろうな。そのへんのところは以下のウィキペディアに詳しい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%83%91%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%82%B9
ジャコの死についてジョニ・ミッチェルはどんな感慨をもったんだろう。'70年代の中頃、『逃避行』のあたりから、たぶんライブアルバム『シャドウズ・アンド・ライト』のあたり時期は、ジョニとジャコはつきあっていたはず。年上の天才肌のアーティストに憧れとともに惹きつけられる若い才能あるミュージシャンという図式だったのかな。「Hejira」を聴いているとジョニの歌に寄り添うジャコのベースには、ジョニへの思慕を思わせる情感さえもが伝わってくるような気がする。様々な付帯情報をいろいろ仕入れてながら聞いていると、一枚のアルバムにもいくつもの物語を想像できる。それもまた楽しい。
『逃避行』の後に続けてジャコのファーストアルバムを聴いてみた。なかなか質の良いフュージョン系のアルバム。たまに聴くにはいいかもしれない。
ジャコ・パストリアスの肖像+2