初島から熱海に戻る。
妻が少し熱海の街を周りたいという。こちらはというと、やや熱中症気味だったが、まあ少しならいいかと熱海港から中心部の方に歩き出す。
すると道路の向こう側になにやら美術館らしきものがある。
熱海山口美術館・・・・・・、聞いたことがない。観光地によくあるような小さな土産物中心の美術館もどきかしら。でも外壁にはルオーやルノワールが。本物?
時間は4時少し前、美術館なら閉館は多分5時だけど、どうするか・・・・・・。とりあえず行ってみることにする。
中に入ると、まずはグッズ売り場。その奥に受付があり、奥はカフェになっている。入場料は1400円なり。受付で係の若い男性から、展示室はいくつかに分かれている。二階に上がるには狭い階段を上っていくことなどを説明される。まあ手摺もあるのでなんとかなるか。
まず一階のグッズ売り場のわきから入る展示室1.2.3では、ピカソの陶器やバンクシーなどがある。そして二階に上がるとそこにも小さな部屋-展示室が何部屋もあるのだが、そこには重文の仏像あり、橋本雅邦や横山大観、青邨、深水などの日本画、魯山人の茶器、さらに別の部屋にはルノワール、ルオーなどのフランス絵画。さらにさらにその奥には現代美術。そこには奈良美智、村上隆、草間彌生、岡本太郎などなど。さらにバンクシーも。
小さな展示室は、まるでワンルームのマンション各部屋を展示室にしたような感じでなにか迷路、迷宮のような雰囲気もある。展示してある作品は小品が多いが名品揃いである。改めて熱海山口美術館っていったいなに、という感じだ。
熱海山口美術館|体験と学びの美術館 (閲覧:2023年9月25日)
熱海山口美術館 - Wikipedia (閲覧:2023年9月25日)
実業家、山口伸廣氏が創設した私立美術館だという。もともとは湯河原にある人間国宝美術館(現在休館中)が母体で、その収蔵品をもとに2020年に開設された。宗教法人ではなく、個人でこのコレクションを有し、それを公開するというのもなかなか凄いことのようにも思ったりもする。
この建物自体は、もともとはタクシー会社の事務所だったビルだという。そして3階以上は個人住居(おそらくアパート)になっているようだ。マンションの各部屋を展示室というのは、あながち間違っていないようだ。


これは見事な六曲一双の屏風絵。まだ実作観ていないけれど、青嘉堂の《龍虎図屏風》と同じ雰囲気を感じる。この絵を観ることができるだけで、来た価値ありというか、たまたま寄ったところで思いがけず名品に出会えたような感じである。
アップにするとまた格別の迫力がある。


そして横山大観。


そしてフランス絵画の部屋は。
ルオーは全部で3点が展示されている。キリスト像のような肖像画はお馴染みだが、彼の風景画や裸婦画はこれまであまり観たことがないかも。厚塗りの画風は実はちょっと苦手なのだけど、この裸婦画などはどこかセザンヌの受容を感じさせないわけでもない。なにごとも第一印象による食わず嫌いはよくないなとも。ルオーはわりとあちこちの美術館に所蔵があるので、きちんと観てみるのいいかなどと思ったり。
藤田もどちらかというと苦手な方であまり食指が動かない。例の素晴らしき乳白色に面相筆による微細な線描。なんとなくワンパターンみたいな感じもして。まあ画力というか絵の上手さは本当に感じるのだけれど。そして戦争画についても、何度も観ているとようするに大画面のスペクタクルを描きたかっただけなんじゃないかとか、そんなことを思ったりもして。
とはいえこの裸婦画はちょっと驚きというか、凄みを感じる。十分にエロチックなのにいやらしい雰囲気がない。こういう絵を描くところ、やはり藤田って凄い画家だなと思ったりもする。
しかしベッドの脇で女性を見つめる鳥だの、猫だの、タヌキだの(?)ってなんなんだろうね。まあ普通に考えれば擬人化と窃視みたいなことなんかなあと思う。
ミロにしては珍しい具象表現。多分、キャリアの初期だろうか。どこかセザンヌの受容みたいな風にも見える。


偶然立ち寄った熱海山口美術館。これまでノーマークだったけど、また行ってみたいところだ。伊豆方面の美術館というと、箱根のポーラ、伊東の池田20世紀、下田の上原、そして熱海のMOAあたりがメイン。そこに湯河原美術館あたりが加わるという感じだったけど、熱海山口美術館もその中に加えようかと思う。また伊豆に行く楽しみが増えた感じでもある。ただ、熱海は駐車場事情がちょっと微妙なので、町中の美術館は多少アクセスに難があるかなとは思ったりもする。
今回はわずか1時間足らずの滞在だったけれど、もう少し余裕をもって行きたいところだとは思った。