東近美の常設展示は5月23日から9月10日まで。ということで基本、前回行ったときとほとんど同じ。ただし7月19日から一部展示替えがあったので、4階ハイライトや3階10室の日本画は展示替えになっていた。
4階ハイライト
《辻説法》 野田九浦
この絵は何度も観ているが、ハイライトに展示されているのは初めて。明治40年の第一回文展で二等賞となった有名な作品でもある。無骨な壮士風の日蓮像や南無妙法蓮華経と書かれた旗など、後の日蓮辻説法のイメージ形成はこの絵によっているということらしい。
この絵では日蓮像だけでなく、説法を聴く聴衆たちの姿に様々に描き分けられている。肩をはだけて放心したような表情で説法に聞き入る女性なども印象的だ。さらにいうと日蓮は説法の時は履き古した草鞋から新しいものに履きかえているのだろうか。草鞋と日蓮についての逸話がないかとググったが特にそういうのは見つけるできなかった。
この日蓮辻説法については、ロシアの宗教学者で日本で研究を続けている方の論文が興味深かった。野田九浦がこの絵を描くに際して『日蓮真実伝』を読み、さらに日蓮所縁の寺を訪ね、モデルに仮装の衣装をつけせて写生をしたことなどが調べられている。
『同朋大学佛教文化研究所紀要』 (41) 43-68 2022年3月
野田九甫は寺崎広業に師事し、<辻説法>が文展に入賞。同年に大阪朝日新聞に入社して夏目漱石『坑夫』の挿絵を担当した。この間、大阪で住み、北野恒冨らと共に大阪画壇を形成し大正美術会を結成した。東京ステーションギャラリーで観た『大阪の日本画』にも数点出品されていたのを記憶している。
《鉄漿蜻蛉》 菊池契月
蓮池に小舟を浮かべた唐子が鉄漿蜻蛉を眺めている。唐子の表情はやや放心したような感じでもある。この時期、菊池契月は蓮池に対して関心をもち写生を重ねていたという。
三重県立美術館 《主要作品解説抄》
鉄漿蜻蛉は、羽がお歯黒のように黒いことから名付けられたという。お盆の頃によく見られることから、京都では「お精霊(しょうらい)トンボ」と呼ばれ、先祖がこのトンボにのってあの世から帰って来るといわれているのだとか。
そうやって見ると、この唐子は母を亡くしていて、鉄漿蜻蛉の飛ぶ様に亡き母を偲んでいるとか、まあ適当に思ってみる。
10室日本画
《かえり路》 池田蕉園
これは新収蔵品で、ある意味今回の所蔵作品展の目玉的作品。10室でこの作品を中心に美人画が多数展示されている。今、気がついたことだが、この作品は購入ではなくコレクターからの寄贈品だという。なんとも有難いことだ。
解説のキャプションにもあったが、もともとは六曲一隻の屏風絵で左側の二面に一人の男性の後ろ姿があり、中央の女性の視線はその男性に向けられているのだとか。その話題をTwitterでしたところ、フォローしている学芸員の方から資料画像を紹介していただいた。
今となっては六曲一隻の実作を見ることは叶わぬことなのだろうが、こういう資料を見ることができるのもSNSの良いところかもしれない。
この作品は女子群像とともに若衆風の男性の後ろ姿がある意味主役である。視線を送る女性、ひそひそ話し合う女子などなど。なんとなくこんな会話が聞こえてきそうである。
《露》 伊東深水
山川秀峰・伊東深水・鏑木清方 木版画
おまけのスィーツ
東近美を閉館の5時に出る。その後、駐車場に戻ろうかと思ったのだが、妻の希望で神保町を少し歩くことにする。そして本当の妻の希望というか、ずっと行きたがっていたすずらん通りの裏にあるタムタムへ行くことにする。目当てのフレンチトーストはすでに完売だったのでパンケーキを食す。美味しかったけどちょっとボリューミー。
自分的にはこれで十分なんだが、妻は多分フレンチトーストを食べるまで行きたいと言い続けるのだろうな。