東京国立近代美術館へ行く (9月1日)

 久々、木曜日に東京国立近代美術館(以下MOMAT)へ行って来た。

 前回、行ったのは6月の後半なので二ヶ月と少しぶりというところか。

ゲルハルト・リヒター展 (6月23日) - トムジィの日常雑記

 リヒターは10月までのロングランなので一応今回も観た。でも、正直ぴんとこない。アブストラクト・ペインティングもなんていうか、伝わってくるものが少ない。こちらの理解不足、知識不足もあるんだろうけど、なんていうか例えばポロックなんかに比べるとインパクトというか響いてくるものが少ない(個人の感想)。

 フォト・ペインティングもグレー・ペインティング、カラー・チャート、オーバー・ペインティングも、どれも理解不能。面白さという点で小品揃いのオーバー・ペインティングなんかは、こういうのありかと思ったりもしないでもないんだけど。

 多分、リヒターの作品は引用性がキーになるような気もする。それもリヒター自身の個人的な経験からの自己引用みたいな。どこか私小説ぽい部分を感じたり。とはいってもみんな思いつきなので展開はできない。

 ビルケナウもホロコーストからの引用によって成立している。究極の悪と惨劇、そういうものへの理解不能性をそのまま描いたみたいなものなんだろうけど、あの作品はなんていうんだろう、簡単に昇華させることを拒否しているような気もする。混沌、混乱のままというか。

 悪と惨劇への気味の悪さ。それは元になっているものが、囚人によって隠し撮りされた数枚の写真がモチーフとなっているせいかもしれない。時代を隔てて覗き見されたホロコーストという部分の薄気味の悪さ、後味の悪さ。安全な場所から除き視た惨劇、それをどう受容していいのかわからない。

 確実にいえるのはこの作品は宗教画ではないということ。同じ抽象絵画でもマーク・ロスコの《シーグラム壁画》には、崇高、畏怖、みたいな超自然的経験、多分疑似的だけどそういう宗教的な経験に似たものを感じさせる。あの作品には観者を混乱させるようなものを多分少ないような。まあすべては単なる思いつき。

 このフォト・ペインティングなんかは観ようによっては、アルトドルファーの風景画っぽい。まあドイツだしそういう系譜もあるんだろうか。

 

 常設展(こちらが目的)は、4Fハイライトが展示替え。土田麦僊《島の女》と川端龍子《草炎》の二点。

《島の女》 (土田麦僊)

 ゴーギャンの影響ありとはつとに有名。土着性とか装飾性とか。とはいえ影響は画風というよりもモティーフとかそのへんかとも。太い輪郭線とかもないし、クロワゾニスム風でもない。装飾性という点でいえばなんとなくシャヴァンヌ、ランソンみたいな趣もあるかもしれない。あとはまあ普通に万葉調的な。

 

 

 全体的な柔らかな線、万葉っぽい雰囲気、小杉放菴は《泉》を描く時に麦僊の線が頭の中にあったかなとか、適当に思ってみたりもする。
 土田麦僊の装飾性に秀でた作品というと《湯女》か《島の女》だろう。両方とも大好きな作品。時々こうやって観ることができるのは嬉しい。

 

《草炎》 (川端龍子

 《草炎》も好きな作品。大田区立龍子記念館所蔵の《草の実》と対になる作品。《草炎》制作後、依頼があって同内容のものを描いたのが《草の実》だとか。濃紺の地に金で描く手法は紺紙金泥教を基にしている。紺地のため夜を連想するけど、真夏の炎天下の情景らしい。

 こうなると《草の実》も観たくなる。龍子記念館も去年は二度訪問しているが、今年はまだ一度も行ってない。ただしHPで現在の展示品を確認しないとなかなかお目にかかれない。名画は観れる時に観ておきたいとも。

 

 1室の裏側ではもうなぜか梅原龍三郎《北京秋天》に惹かれた。

《北京秋天》(梅原龍三郎) 1942年

 もう何度も観ている絵だけど、改めて観ているとその色遣いなど、本当に美しい絵だと思った。特に離れて観てみると青みのある空の美しさが感じられた。別に印象派的な視覚混合ということではないのだろうけど、そういう作用が少なからずあるようには思えた。

 以前、MOMATで梅原龍三郎安井曾太郎の二人の作品を一室にまとめて展示していたことがあった。日本画壇の巨匠という括りだっただろうか。そのときに色彩重視の梅原、構図や形態を重んじる安井という解説があったような気がする。実際、梅原はルノワールに師事していたし、安井はセザンヌの影響が指摘されてもいた。そのときはそんなものかなと思ったのだが、こうやって《北京秋天》を観ていると、梅原の色彩への拘りみたいなものが改めて感じられた。

 その他の常設展示では3F10室の日本画水墨画が中心。平福百穂の《堅田の一休》など初めて観るものも多数あった。

 

 2Fの現代絵画では福田繁雄となぜか福田美蘭の作品が並列展示してあった。改めて考えてみると、この二人が親子であることに気がついた。

 それにしても福田美蘭の批評性、実験精神には驚かされる。《copyright》と題した連絡、これはまんまディズニーである。訴えられない程度に諸々処理されているが一目瞭然。著作権と引用への問題提起ということなんだろうけど、いろいろと闘ってきた人なんだなと思いつつも、とにかく面白く観させてもらた。