菅首相退陣報道

 朝日新聞一面の記事である。

 そして前日9月3日の一面がこれ。


 もちろん菅首相退陣のニュースはSNSやネットニュースで流れていたので、第一報を目にしていたし、周辺情報や首相退陣への様々な反応についても知っている。しかしたった1日で「出馬伝達」から「退陣へ」である。

 マスコミ報道が新聞やテレビだけだった時代、20世紀の時代であったら、この1日で真逆の急変に、国民の多くは対応できなかったのではないか、そんなことを思ったりもする。事態の急変、まさに政変の趣である。しかしインターネットの普及により、情報は加速化し、速報的な情報が大量に流れてくる。それらを浴びる我々は、総理大臣が来る総裁選立候補を断念して退陣することにも、「ふ~ん」という特に感情移入することもないまま、情報をやり過ごしている。多分そんな感じである。

 菅総理の総裁選立候補断念の理由が笑わせる。

「私自身、新型コロナ対策に専念したい。そういう思いの中で総裁選に出馬しないと申し上げた」

 「新型コロナ対策に専念したい」・・・・・、そうはいって自民党総裁選は17日告示、29日投開票であり、国会で圧倒的多数を占める自民党総裁は10月に次の総理大臣に選出され、そしてすぐに任期満了を迎える衆議院議員は総選挙を迎える。遅くとも11月の後半には選挙となる。

 菅総理が「新型コロナ対策に専念」する時間は、わずか一ヶ月足らずなのである。それを理由に総裁選不出馬はさすがに無理がある。それが理由となるのであれば、総理と共に「新型コロナ対策に専念」する立場の現職閣僚も当然不出馬となるべきである。名前が取り沙汰されるワクチン担当大臣などなど。

 さらにいえばいまだ1日の新規感染者が1万5千人以上という感染拡大の状況にあって、政権与党は総裁選といったイベントごとで政治的空白を作っていいのかという問題もある。せめて総裁選が行われたとしても、国会が開かれているのならまだしも、国会は6月に閉めたままで、野党の国会開催の要求を政権与党自民党公明党は拒否し続けている。

 菅総理の総裁選立候補断念の理由はこれもマスコミで報じられているが、自ら断念したのではなく断念、退陣に追い込まれたのである。今年に入ってから国政選挙で自民党は連戦連敗を続け、菅総理のお膝元の横浜市長選挙では、現職閣僚が立候補して野党が押す候補に大敗した。支持率は20%台に落ち込み、自民党内では菅総理の元では選挙を戦えないという声が多数出て来た。それらの声を派閥の長たちは抑えることができず、それまで有力派閥の長の支持によって政権を維持してきた菅総理の再選戦略はまったく見通しがつかなくなった。そういうことだ。

 前日、菅総理は二階幹事長と会談して「出馬の意思を伝達」したという。しかしその足元では、彼を支持する各派閥は菅支持を取りやめにする動きが加速していた。すでに解散権を奪われていた菅総理は、党役員人事を行うことで再選への道筋を探ろうとしたが、誰も泥舟に乗ろうとはしなかった。総理の二大権限でもある解散権と人事権を失っては、残された選択肢は退陣しかなかった。文字通り退陣に追い込まれたということだ。

 菅政権の支持率低下、不人気の理由は明らかだ。1年半にも及ぶ新型コロナウイルス感染症爆発=パンデミックに対して、無為無策、後手後手に終始したことだ。さらにいえばそれは安倍前政権の政策をそのまま引き継いだからに他ならない。オリンピックを開催するために感染症の被害を低く抑える、現実の状況をみることなく、楽観的な見通しに終始してきたことによる。検査を、検査体制を重要視せず、パンデミックにも対応できるような医療体制構築を怠り、自粛や休業に追い込まれて疲弊した国民生活への補償にも積極的に取り組まなかった。

 なぜ後手後手の対策、しかもつねに少なく、つねに遅い対応に終始したのか。本来、政治の危機管理は、最悪を想定して動くはずなのに。それは結局、危機的状況にあるのに、さらなる危機的状況が想定できるのに、なぜオリンピックを開くのかという問いかけに答えられないからだ。この国の感染症対策の大元には「オリンピックありき」という至上命題があった。オリンピックをやる以上、積極的な感染症対策はとれないと。

 その結果、7月にオリンピックは強行され二週間の会期を終えた。緊急事態宣言下のオリンピック、しかも開催中に感染者数は拡大の一歩を続けた。そしてオリンピックが終わり、それに続くパラリンピックが続くなかでパンデミックは拡大した。それは新規感染者数の数字が何より証明している。

 

日付 事項 国内新規  国内死者   東京都 
7月23日  東京五輪開幕 4,225 9 1,359
7月24日 ・輪関係新規感染17人、累計123人 3,574 8 1,128
7月25日 ・東京1763人、日曜で過去最多 5,020 4 1,763
7月26日 ・東京都の累計感染者数20万超 4,692 12 1,429
7月27日 ・東京感染最多2848人 7,629 13 2,848
7月28日 ・感染者全国最多9583人、東京3177人 9,583 8 3,177
7月29日 ・国内感染1万人超。東京都、8/11に4532人に達する試算 10,693 14 3,865
7月30日 ・政府、埼玉、千葉、神奈川、大阪に緊急事態宣言発出決定             10,743 9 3,300
7月31日 ・東京感染最多4058人、10都府県で最多更新 12,342 9 4,058
8月1日 ・五輪組織委事務総長、コロナ対処想定内と発言 10,177 5 3,058
8月2日 ・政府、高齢者2回接種75.5%に達したと発表 8,393 11 2,195
8月3日 ・政府、中等症患者を在宅療養すると発表 12,017 10 3,709
8月4日 ・23都道府県、ステージ4に達する 14,207 14 4,166
8月5日 ・世界の感染者2億人超、国内感染者最多1万5千人超    15,263 8 5,042
8月6日 ・国内感染者累計100万人超 15,645 20 4,515
8月7日 ・重点措置8県追加 15,276 14 4,566
8月8日 東京五輪閉幕 14,472 9 4,066
8月9日 ・国内感染7日連続1万人超 12,073 12 2,884
8月10日 ・東京都重傷者患者数176人、過去最高 10,574 19 2,612
8月11日 ・専門家組織、現在の感染状況は災害時の状況との認識 15,812 20 4,200
8月12日 ・東京都専門家会議で東京の感染状況「制御不能」と言及 18,888 24 4,989
8月13日 ・国内感染者2万人超、重傷者1478人いずれも過去最多 20,366 25 5,773
8月14日 ・2日連続2万人超、重傷者1521人 20,151 18 5,094
8月15日   17,832 10 4,295
8月16日 ・緊急事態9/12日まで延長、7府県追加
パラリンピック、無観客で開催
14,854 26 2,962
8月17日 ・緊急事態13都府県、まん延防止16道県、2日より 19,955 47 4,377
8月18日 ・感染爆発40都府県に、国内感染デルタ株9割超 23,916 30 5,386
8月19日 柏市で感染した妊婦が自宅出産、新生児は死亡 25,156 28 5,534
8月20日 ・東京医療崩壊、感染者のうち入院者は1割満たず 25,876 37 5,405
8月21日 三重県、国体中止を申し入れ 25,492 34 5,074
8月22日 ・国内感染2万2285人、日曜としては最多 22,285 24 4,392
8月23日 ・国と都は都内の医療機関に病床確保要請 16,859 32 2,447
8月24日 ・東京パラリンピック開催 21,569 42 4,220

 

 問題は今後は自民党総裁選という政局により、国内政治、何よりも感染症対策がすべて置き去りにされる恐れがあるということだ。いやそれは恐れではなく、間違いなく現実だ。9月は自民党の総裁選、その後の組閣と国会開催、新内閣の発足。そして衆院議員任期の満了と総選挙。おそらくこれからは2ヶ月は自民党の顔選びと新内閣発足の報道で埋め尽くされることになる。その間、緊迫の課題ともいうべき感染症対策、医療逼迫の状況は何も手を打つことがないまま放置される。

 おそらく長く続く緊急事態の効果で今後一時的には感染者数は低下され、その間にワクチン接種も進む。しかしすぐに冬の感染爆発を迎えることになる。すでに新種の変異株も見つかっている。今の状況への対処とともに冬への対策を進めることが重要なのだが、政権党は選挙の顔選びに奔走し、マスコミはその報道を垂れ流すだけである。

 今必要なのは自民党総裁選を先送りして、まずは感染症対策を行うべく国会を開くことではないかと思う。菅総理退陣の報を受けて、立憲民主党辻元清美議員がすぐにTwitterにビデオメッセージを寄せている。しごくまとまな内容なのでリンクを貼っておく。

辻元清美 on Twitter: "菅総理辞任の一報を受けて。

辻元清美から辞めてゆく菅総理に最後のお願い。動画をご覧ください。… "