襲われた幌馬車

襲われた幌馬車 [DVD]

襲われた幌馬車 [DVD]

  • 発売日: 2010/05/21
  • メディア: DVD
 

 これもBSで録画したものを観た。リチャード・ウィドマーク主演の異色西部劇だ。

襲われた幌馬車 - Wikipedia

 まず独特な風貌から脇役、悪役で異彩を放つリチャード・ウィドマークが主演というのが異色。さらに1956年という時代にあって、先住民(インディアン)に対して同情的な扱いがなされている。

 主人公コマンチ・トッドはコマンチ族に育てられた若者。妻と子どもを殺したハーパー兄弟を復讐のために襲撃するが保安官につかまってしまう。護送される途中で幌馬車隊と遭遇し、アパッチ襲撃に備えるために同行することになる。途中アパッチ族に襲われ、幌馬車隊のほとんどが殺されるが、残された数名はトッドに従って窮地を脱する。

 先住民と結婚した白人が主人公、妻や家族が無法者の白人にレイプされ殺されたために復讐に立ち上がるという筋立ては、ほぼ同時期作られた『ガンヒルの決斗』と似通っている。『ガンヒルの決斗』は1959年作品、『荒野の七人』『大脱走』などで知られるジョン・スタージェス監督作品でカーク・ダグラス、アンソニー・クィンが主演。

ガンヒルの決斗(字幕版)

ガンヒルの決斗(字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

  主人公のカーク・ダグラス演じる連邦保安官は、先住民の妻を無法者にレイプされ殺される。その犯人がガンヒルで大牧場主となっている友人(アンソニー・クィン)の息子であることが判り、単身ガンヒルに乗り込むが息子を溺愛するクインと対立。ガンヒルでの対決は1日で朝汽車で着いてから、帰りの汽車に乗るまでという時間軸で進行する。さらに町の有力者であるクインと対立するためダグラスは町で誰の協力も得られず、孤立した戦いを強いられる。そういう構成はなんとなく『真昼の決闘』を連想させる。

 この『ガンヒルの決斗』もほぼ同時期にBSプレミアムでやっていてこれも飛ばし飛ばししながら観ているのだが、これの感想はまたどこかで。

 話は『襲われた幌馬車』に戻す。異色の西部劇論という意味では、1950年代中盤にかけてそろそろ西部劇も白人開拓者や奇兵隊と無法な野蛮人である先住民の対立という図式から抜け出そうとし始めている。先住民を白人が侵略したという形で捉えられるのは、ヴェトナム戦争とそれへの抗議といった運動が活発化する70年代前後ということになる。多分アーサー・ペンの『小さな巨人』、ラルフ・ネルソンソルジャー・ブルー』あたりからだろうか。

 この映画の公開1956年にはまだ白人を侵略者とする視点はまったく出ていないし、そういうテーマはまだ受け入れられる土壌がなかった。なのでここでは先住民にも理解を示す良き白人と無法な殺戮者である邪悪な白人との対立という形をとっている。さらにいえば先住民も白人に融和的なコマンチ族に対して、無法で野蛮なアパッチ族を対立させるという形になっている。まあ実際のところはコマンチもアパッチも白人に先祖からの土地を追われた被征服民であることは変わりないのだが。

 この映画の監督はデルマー・デイヴィス。長いキャリアで沢山の西部劇を手掛けている。代表的なところでは若きジャック・レモンが主演した『カウボーイ』、本作と同じように先住民の視点から描いたジェームズ・スチュアート主演『折れた矢』、ゲイリー・クーパー主演『縛り首の木』など、どこか一風変わった作風だ。

 さらにこの監督は青春映画の佳作をけっこう手掛けている。『避暑地の出来事』『二十歳の火遊び』『スーザンの恋』『恋愛専科』などなど。基本的に主演は当時絶大な人気のあった若手アイドル俳優トロイ・ドナヒュー、相手役はサンドラ・ディー、アイドル歌手だったコニー・スティーブンス、若手美人女優スザンヌ・プレシェットなど。

 基本的には低予算、人気アイドル俳優、歌手による青春映画、よくあるプログラム・ピクチャーなのだが職人監督デルマー・デイヴィスにかかるとこれが小粋な恋愛映画に仕上がる。『避暑地の出来事』や『恋愛専科』は多分70年代のどこかでテレビ放映されたものを観た記憶がある。

デルマー・デイヴィス - Wikipedia

 『襲われた幌馬車』ではリチャード・ウィドマークに反発する若者役としてニック・アダムスが出ている。この人の名前をなぜ覚えているかというと、東宝に招かれて怪獣映画フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965年)に出演している。あの映画の中で日本語は吹き替えだったが、ハリウッド俳優が主演した怪獣映画ということで強烈に記憶に残っている。

 ニック・アダムスは日本に招致されたすぐ後の1968年に薬物の過剰摂取で36歳の若さで没している。身長170センチと小柄なこともあり、ハリウッドでは今一つ目が出なかったようだ。

ニック・アダムス - Wikipedia

 当時の東宝怪獣映画にはハリウッド俳優がけっこう招致されていてこのフランケンシュタイン対地底怪獣』の続編にあたる『フランケンシュタインの怪獣サンダ対ガイラ』(1966年)には、ミュージカル俳優で『ウェスト・サイド・ストーリー』や『略奪された七人の花嫁』などでアクロバティックなダンスを得意としたラス・タンブリンが出演している。

 人気のあるミュージカル・スターが日本の怪獣映画に出演という意味ではちょっと意外な感じがするが、ラス・タンブリンもニック・アダムス同様、ハリウッドではあまり活躍の場がなかったのかもしれない。

 もう一つラス・タンブリンというと小柄な印象がある。彼の身長は175センチなのだが、日本人俳優との絡みからすると長身の俳優はNGみたいな部分もあって採用されたのかもしれない。