東京富士美術館再訪

 久々に東京富士美術館に行ってきた。

 ここも新型コロナウイルスの影響で3月からずっと休館していて、7月3日に開館したばかり。6月に西洋美術館とポーラ美術館に行った後、しばらくお休みしていたのだが、カミさんがまたぞろ何処かへ連れて行けというので、まあ近場で車だと30分足らずで行けてしまうので行くことにした。ある意味ここは上野の西洋美術館、竹橋の近代美術館とともに、自分にとってはベースになるような美術館でもある。

 現在やっている企画展はこちら。

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 花を切り口にして絵画、日本画、工芸品などを集めた小企画展というところ。通常、この美術館は夏になると小中高生向けの企画展をやることが多い。ジブリ関連とかピッピシリーズとかプリンセスものとか観た記憶がある。それからすると今回の企画展はやや地味。やはりコロナの影響で子どもの来館は望めないということもあるのだろう。

 さらにいえば、本来は富士美術館所蔵の日本美術を大がかりに展示する「This is Japan in Tokyo」が開かれるはずだったのだが、コロナの影響で秋に順延となった。

 そこでこの「Flower×Flower展」となったようだ。しかし、この美術館の収蔵品の質、量には驚かされるばかりだ。創価学会の資金力、底力というところか。

 Flower×Flower展」についてはこじんまりとした感じであり、西洋絵画にはあまり品数が多いという訳でもなく食指が動く作品は少ない。かサットやピサロの作品が展示してあるのは、なんとなくこじつけっぽくもある。

 その代わり工芸品に関しては美しい作品が沢山展示されている。特にガレやドーム兄弟のガラス工芸品はなかなか圧巻なものがある。ここのコレクションはポーラ美術館に匹敵するのではないかと思ったりするくらいである。そしてそれよりも白磁器や伊万里焼、有田焼などが目をひく。柿右衛門や景徳鎮の美しさの前には、なにかガレやドーム兄弟の工芸品も少しばかり霞むような気さえする。

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 さらにこの伊万里焼の婦人像はもう圧巻という感じだ。職人の匠とかそういうレベルを超えた作品と思える。

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伊万里焼『色絵菊文婦人像』

 その他ではこれも花の文様の挿絵からということで展示されていた私家版書籍。装丁ウィリアム・モリス、挿画、エドワード・バーン=ジョーンズというおなじみのコンビによる美しい書籍。

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ケルムスコット・プレス版『チョーサー作品集』

 もう挿絵から文字まですべてが美しい。ここまでくれば書籍は立派な工芸品、芸術作品ということだ。もしこれが彩色してあったらどんな風になるだろう。中世の時祷書に匹敵するのではないかと勝手に想像してしまう。

 その他いつもの常設コーナーでは16世紀から18世紀にかけての作品、まあいつもの作品が展示してある。常設展示コーナーの現代絵画コーナーをFlower×Flower展に使っていることもあり、心なしかボリューム感に乏しい。さらにこの美術館の目玉といえる作品、ルノワールやモネ、マネの作品の展示もない。ひょっとしたらどこかの美術館に貸し出ししているのかもしれない。春先には確か茨城近代美術館で東京富士美術館のコレクション展をやっていたようにも記憶している。

 前回来たのは多分去年の秋頃だったと思う。18世紀から19世紀にかけての絢爛豪華なフランス絵画の企画展だったろ思うが、その時の常設展示とほとんど同じようなラインナップだったように思う。ふだん印象派の絵画を集めた部屋ではイギリス風景画が展示されている。比較的地味なものが多いのだが、その細密な写実性、それでいて抒情性に富んだ作品にはなんとなく心が癒される。さらにいえば、美しいけれどもどことなく凡庸感もある。これは批判とかではなく、その凡庸性が逆に観る者になんとなく安心感を与えるような、そんな心持ちだ。

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ジェームス・バーレル=スミス『滝』

 滝のバーレル=スミスと評されることも多いと聞く。実際、滝を題材にした絵を沢山描いている人でもある。ここ以外でもこの人の滝や川を描いた作品を何度か観ている。泡立つような水の表現が特徴的だ。

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ジョン・クレイトン・アダムス『岩のある河の流れ』

 これなどはまさしく美しき凡庸性という感じがする。

 もう一つ、これは新収蔵品らしくツィッターでも紹介されていたイリヤ・レービンの『ウクライナの女』。思った以上の小品だった。いつかこの人の大作『ヴォルガの船曳き』を観たいものだとも思う。

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ウクライナの女』