府中市美術館「ふつうの系譜」再訪

 府中市美術館で開かれている「ふつうの系譜」展に行って来た。

春の江戸絵画まつり ふつうの系譜 「奇想」があるなら「ふつう」もあります ー 京の絵画と敦賀コレクション 東京都府中市ホームページ

 この敦賀市博物館所蔵品を中心として、「復古やまと絵-土佐派」、「狩野派」、「円山四条派」、「岸派」、「原派」といった江戸期の絵画の流派を俯瞰する企画展はなかなかに見応えがある。開会してすぐに一度観に行っている。

府中市美術館 ふつうの系譜 「奇想」があるなら「ふつう」もあります - トムジィの日常雑記

 この企画展も最近の展覧会によくあるのことだけど、前期展示、後期展示で大幅に展示を変えてくる。全展示作品106点のうち、前期展示52点、後期展示54点なのである。今、展示予定表を改めて見てみると、通期展示が一つもない。ある意味では、同じ「ふつうの系譜」という企画であるけれども、前期、後期で別の展覧会だともいえちゃうわけだ。

 会期スケジュールは以下となっているので、ギリギリセーフという感じだ。

 前期:3月12日(土)~4月10日(日)

 後期:4月12日(火)~5月8日(日)

 多少の微妙感はあるけれども、まあそれだけ沢山の名品が見れるので、この企画展へのマイナスイメージはまったくない。逆に、よくこれだけの作品を揃えてくれたと思ったりもする。展示作品106点のうち99点が敦賀市立博物館所蔵品だけど、これだけの作品借りるには相当良い関係性がないと難しいだろうし、作品を選ぶ力もあるとは思う。

 ここ数年、江戸絵画のユニークな展覧会を続けているだけに、様々な切り口の企画が立てられるのだと思う。

 その企画成功は多分何をおいても、かわいい動物画だと思う。今企画展もある意味では目玉となるのは「かわいい」「もふもふ」の動物画ということになる。それがまあ応挙の狗子図ということになるのでしょう。前期展示の狗子図は長澤芦雪1点だったので、まあ後期がおすすめといえばおすすめ。犬好き、犬目当てということであればということになるけど。

「狗子図」(円山応挙) 加賀市博物館所蔵

「狗子図」(円山応挙) 個人蔵

 そして本来展示予定にはなかったのだが、急遽展示になったらしいのが府中市美術館所蔵の狗子図。展示された「狗子図」の中では一番最初に描かれたものらしい。

「時雨狗子図」(円山応挙) 府中市美術館蔵

 まあとにかくかわいいが総て。この絵をディスるなんてことは普通できないとは思うよ。犬派であれ猫派であれ、かわいければ無問題でしょう。この狗子だけど、多分同じモデルだと思うんだけど、応挙が飼っていたものか、そしてどこから入手したのかとかちょっと気になる。さらにいえば多分、外来種で中国あたりからだと思うのだが、犬種や由来とかは。多分、調べればある程度はわかっているのかもしれない。そういう文献にあたるのも楽しいかもしれない。

 

 その他、きになった作品。

「合歓花小禽図」(松村景文) 敦賀市博物館所蔵

 前期展示で個人的にベストだと思ったのが呉春の「柳枝小禽図」。そして今回の後期展示でなんとなく一番気に入ったのが松村景文のこの作品。キャプションにあったのか、図録だったか、景文は呉春の年の離れた異母弟だそうだ(27歳くらい違う)。呉春亡き後は四条派の発展に貢献したという。呉春に学んだのだろう、雰囲気は当然似ている。まあ画題が柳と合歓なので、受ける印象はことなるにしろ。

「敗荷鴛鴦図」(幸野楳嶺) 敦賀市博物館所蔵

 幸野楳嶺の作品は前期展示には「嵐山雪景図」が出品されていたが、後期展示には「この敗荷鴛鴦図」と「雪中清水寺」の2点が出ている。いずれも画力抜群で、円山四条派の流れを継承しているということなのでしょう。敗荷(はいか・やれはす)は秋の雨風に打たれて破れていく枯れた蓮のこと。寂しい秋の季語として用いられるとは、図録に解説がある。

「朝陽蟻軍金銀搬入図」(鈴木芳年) 敦賀市博物館所蔵

 幸野楳嶺といえば鈴木芳年か。上村松園のお師匠さんでいろいろと噂のある方のようです(下世話ですみません)。当時、「今蕭白」と称されるなど豪放で奇抜な絵を描く人だったというが、この絵を観てもなんていうか、けっこう奇抜な画題を取り上げる人だったんだなということがわかる。蟻が金銀をせっせと巣穴に運んでいるなんて、あまり考えないもの。まあ一応、朝暘の元でせっせと働く蟻の行軍なので、お目出度い画題といえるのかもしれない。

 

 「ふつうの系譜」へは5月8日まで。たいへん充実した企画展なので、都内近郊の方にはぜひお勧め。GW、遠くに行っても人は多いし疲れるし、みたいな方にはぜひっていう感じ。

 府中市美術館の次の企画展は「ただいまやさしき明治」。この企画展は、去年秋に京都国立近代美術館で開催された「発見された日本の風景」の連携展。真向いの京都京セラ美術館で「上村松園展」観た後に寄ったのだけど、時間がなくてじっくり観ることができなかった。そのときに観た笠木次郎吉作品をまた観ることが出来るのはとても楽しみ。あれはある意味、去年の最大の発見みたいな感じだったから。

 会期は2022年5月21日(土曜日)~7月10日(日曜日)まで。これも絶対行かねば。

孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治 東京都府中市ホームページ

 

 府中市美術館のあるのは府中の森公園内。こちらも天気が良かったので今回は初めて散策してみた。子ずれ家族が三々五々のんびり遊んでいる中で、散歩してみたけど天気も良かったのでえらく気持ちが良かった。妻も車椅子を降りて少しだけ並木道を歩いてみたりした。公園と美術館、府中市民がちょっぴり羨ましくなるようなところ。

 

 カモさんは完全に人馴れしていて、近づいても逃げない。子どもたちも近くまで寄っても「カモさん、バイバイ」とスルーする。近くで見るけど手を出さない。カモもテリトリー守っていて、そこまでこなければじっとしてる。こういうの嫌いじゃない。