東近美「重要文化財の秘密」 (3月23日)

 東近美の「重要文化財の秘密」展がを観てきた。「史上初、ぜんぶ重要文化財」というキャッチコピー、東京国立近代美術館70周年記念展という大掛かりな企画展である。

 出品点数は、明治以降の日本近代美術の重要文化財指定作品、全68件中51点が終結している。68件となっているのは、一部下絵を含めて指定されているため。また明治以降の美術作品で国宝は一点もないので、ここで取り上げられた重文作品は実質的に国宝に準じた扱いとなっている。

「重要文化財の秘密」 問題作が傑作になるまで 公式ウェブサイト

(閲覧:2023年3月28日)

重要文化財とは

 文化財保護法に基づき日本国政府が指定した文化財を指す。指定基準は以下のとおりとなっている。

〇 絵画、彫刻の部
重要文化財
 一 各時代の遺品のうち制作優秀で我が国の文化史上貴重なもの
 二 我が国の絵画・彫刻史上特に意義のある資料となるもの
 三 題材、品質、形状又は技法等の点で顕著な特異性を示すもの
 四 特殊な作者、流派又は地方様式等を代表する顕著なもの
 五 渡来品で我が国の文化にとって特に意義のあるもの
・国宝
 重要文化財のうち制作が極めて優れ、かつ、文化史的意義の特に深いもの

〇 工芸品の部
重要文化財
 一 各時代の遺品のうち制作が特に優秀なもの
 二 我が国の工芸史上又は文化史上特に貴重なもの
 三 形態、品質、技法又は用途等が特異で意義の深いもの
 四 渡来蘋で我が国の工芸史上に意義深く、密接な関連を有するもの
・国宝
 重要文化財のうち制作が極めて優れ、かつ、文化史的意義の特に深いもの

会期・展示期間

 会期は3/17(金)~5/14(日)までとなっているが、国宝・重文の公開日数は延べ60日以内、褐色や材質の劣化の高いものは延べ30日以内、照明は原則150ルクス以内、また貸出日数も基本60日などという細かい規定があるため、展示替えが頻繁にある模様。

 展示リストを見ていると、展示期間は通期展示を含めておおよそ12に分けられている。そのため展示作品すべてを見るためには、展示リストをよく確認して鑑賞スケジュールを立てる必要があるかもしれない。

 去年、同じ東近美で開かれた鏑木清方展も、かなり展示期間が細切れだったが3回観に行ってほぼすべての作品を観ることができたけど、今回はかなり難しいかもしれない。

東近美「重要文化財の秘密」展示リスト - トムジィの日常雑記

初めての作品

 やはり重要文化財指定作品というと、これまでに東近美、トーハク、藝大などで一度や二度は観ている作品が多い。今回の展示作品でこと絵画についていえば、初めて観る作品はたぶん三点くらいだっただろうか。

弱法師

《弱法師》 下村観山 1915年 東京国立博物館

 

豫譲

《豫譲》 (平福百穂) 1917年 永春文庫

 いずれも初めて観るし、ニワカの自分はその作品名すら知らなかった。下村観山といえば《木の間の秋》、平福百穂は《荒磯》が定番という風に思っていたので、この二点が重文指定というのは意外な気もした。もっともそんなニワカの心持ちなど東近美側も先刻承知のようで、常設展4階にはしっかり《木の間の秋》、《荒磯》が展示してあった。

《漣》 (福田平八郎) 1932年 大阪中之島美術館

 感覚的写実、抽象主義をも感じさせるなど、日本画表現の新境地を打ち出した画期的な作品としてつとに有名。2016年重文指定と比較的最近に指定されたらしい。この新機軸の作品が重文指定されるという点でいえば、日本画の作品研究や評価が進んでいるのかもしれない。少なくとも同じ2016年に指定された山本芳翠《裸婦》などに比べればということになるけど。

 まだまだ洋画はアカデミズム、西洋画の模倣や受容という点でしか評価されていないのかもしれないなとか、なんだか諸々考えさせられたりもする。

その他の作品

王昭君

王昭君》 (菱田春草) 1902年 東京国立近代美術館寄託

 
《賢首菩薩》

《賢首菩薩》 (菱田春草) 1907年

 

 菱田春草作品で重文指定はこの二点の他、5月9日から展示される《黒き猫》、今回展示のない《落葉》(永春文庫)と四点ある。多分、個人作家では一番多いのではないか。盟友だった横山大観でも二点であることを考えると菱田春草はちょっと評価され過ぎではと思ったり。まあ素晴らしい作品であることはまちがないし、朦朧体を昇華させた色彩表現、点描などの技法の導入などの点も評価されているのだろうか。あとは早世したというのがけっこう大きかったり。これは洋画の関根正二青木繁にもいえるかもしれないけど。

行く春
《行く春》 (川合玉堂) 1916年

 東近美の春の定番作品である。通常は「美術館の春まつり」として3階の日本画のコーナーに展示される。なので企画展示コーナーで観るというのもちょっとした違和感もないではない。並みいる重文作品、名品の中にあっても、この作品の良さとでもいうのか、ゆっくりと移ろいで行く春の情景はなかなかに趣がある。この作品を前にすると、重文とかそういう冠がどうでもよくなってくる。

十二の鷹
《十二の鷹》 (鈴木長吉) 1893年
 
褐釉蟹貼付台付鉢

《褐釉蟹貼付台付鉢》 (初代宮川香山) 1881年