宇都宮美術館-勝井三雄展

 日光は前夜からけっこうな雨が降っていたので、どこにも行くところがない。しかたなく宇都宮美術館へ行くことにする。一昨日は諸橋近代美術館、昨日は福島県立美術館ミュージアム巡り三連荘。こういうのも悪いことじゃない。

 宇都宮美術館の企画展はこれ。

宇都宮美術館|企画展

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 で、勝井三雄って誰よという感じ。

勝井三雄 - Wikipedia

 寡聞にして存じ上げない人なんだが(最近このフレーズばっかり)、要はグラフィック・デザイナーの草分け的存在の人らしい。コンピュータ・グラフィックスをかなり早い段階から取り入れてきた人でもある。なにか特徴的にはグラデーションを多用した色鮮やかな作品が多い。装丁した書籍とかを見ると、それこそ「ああこれこれ」みたいな感覚になる。ほぼ同時代的にこの人の作品を享受してきたことを再確認させられる。

 その装丁作品を一堂に会した展示スペースがこんな感じである。これはもう壮観の一語に尽きる。現役クリエイター、編集者は一度足を運んでおいた方がいいかもしれない。

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 パネル展示してあったのだが、勝井三雄は百科事典のデザインにあたって、文章レイアウトのモジュール化、図版のパターン化を試みたのだという。それが講談社『現代百科事典』全3巻。1971年のことだという。

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 なるほど、最近の百科事典のレイアウトはみんなこれを踏襲しているように思う。まあ『広辞苑』あたりはビジュルアルよりテキスト重視なので、まったく独自の世界を歩んでいるようにも思う。

 パネルにはそのレイアウトコンセプトが様々に解説してあった。もうリタイア目前のジイさんだというのに、なんでかしらず必死にメモをとってしまった。

1.モジュールとパターン

百科事典の在り方を提示するため、「規格化」(モジュール)を試みた。さらにレイアウトにコンピュータを導入、膨大な図要素に対しては編集意図を明快に表現し、統一されたトーンを実現するためパターン化を試みた。

〇意味:図版のテーマ→ヨコ軸

〇表現:造形要素→タテ軸

2.レイアウト

能率的かつ効果的にレイアウトするため積極的にコンピュータを活用し、ページ構成のうえでは、5行1単位のモジュール(95字)によってレイアウトを管理した。これによって文章との位置関係を統率し、全頁にわたって安定感と統一感を与え、さらに情報の検索性を著しく向上させた。

3.レイアウトの基本原則

① 図版類は本文項目のあるページに。

② 中小図版(1段、2段)は本文項目の近くに中積み方式(頁の中心に

  図版を集中させる)。

③ モノクロ写真、イラストは1、4段に置く。

④ 化学構造式は項目の本文6行目から入れる。

⑤ 他項目の図版で本文を切断しない。

⑥ 本文、図版のスペース変更のための予備スペースとして、1ページ

  につき5行の余白がコンピュータによって割付られる。

⑦ 1ページに図版が多数入る場合は、内容別、タイプ別にまとめて

  配列することがある。

 

  これは本だけでなく、今のウェブデザインにも必要かもしれない。我々は無料の検索サイトやウィキペディアに慣れてきてしまっているけど、けっして読み易い、検索し易いデザインとはいえない。より使い勝手のよいページを構成するためには、ウェブ時代の新しいレイアウト、デザインの手法が作られるべきかもしれない。ある部分、このジャンルはまだ確立していないのではないかと、そんなことを漠然と考えた。