赤帯の話

 舞鶴引揚記念館でシベリア抑留者の過酷な生活の記録を見ていて、ふと一つの話の断片を思い出した。それは抑留された日本兵たちが飢餓状態の中で、監視するロシア兵からご馳走をふるまわれるというものだ。話の全体についてはまったく憶えていないのだが、ご馳走になった食事のことだけが何か鮮明にイメージされている。そのご馳走は陶器でできた洗面器に入った鮭の切り身なのである。赤い切り身がイメージされている。

 抑留され、厳しいシベリアの冬の強制労働の中で日々飢餓状態にある日本人捕虜たちは、その鮭(確か生鮭であった)を貪るようにして食べるのである。この話は記憶をたどると確か教科書に載っていた話だった。それが小学生の時のことだったのか、中学生か、あるいは高校生なのか、そのへんはまったく思い出せない。ただただ陶器の洗面器に入った生鮭の赤い切り身だけが記憶されている。

 そのことが気になりだし、その場でスマホで検索してみる。検索ワードは、「シベリア抑留」、「陶器 洗面器」、「鮭の切り身」などなど。するとなんとなく同じように検索した人がいるのだろうか、この話が梅崎春生の短編小説であることがわかる。いや、インターネット社会というのは素晴らしい。

 自分と同じように昔教科書で読んだ話を探してたどりつき、その短編が収録された書籍を紹介しているサイトを見つけることができた。短編のタイトルは「赤帯の話」である。

blog.goo.ne.jp

 さらにこの話をテキストに入力してブログにアップしている方も見つけた。そうそれによって、何十年ぶりかに断片だけを記憶していたこの短編小説を読むことができたのである。

 著作権的に問題はないかと調べてみると、梅崎春生の作品は2016年に著作権が切れてフリーになっていることもわかった。と、これはTPPの調印以前の話だ。著作権期間が20年延長されたとなると、この作品のアップも諸々問題になるかもしれない。筑摩の作品集が絶版にでもならない限り問題になるのだろう。

 著作権とTPPについては別の機会にいろいろ書いてみたいとは思う。今は、記憶の断片にあったお話しと巡り会えたことを素直に喜びたい。インターネット万歳である。そして飢餓と食事の夢、赤い鮮やかな鮭の切り身のことをイメージしてみる。