出版業界ネタ

朝日の5月30日土曜日朝刊の一面に出版業界ネタがとりあげられていた。出版界の地殻変動と題する内容でブックオフ株を業界最大手の講談社集英社小学館の三社と大日本印刷が取得したという記事である。
出版業界のネタが新聞の一面を飾るというのは、ようは他にネタがなかったからというのが定説だとは思う。たかが古本屋チェーン店の株式を出版社と印刷会社が取得したというのが、なぜに大新聞の一面にデカデカでるのだろうと、まあそのへんからして疑問ではある。とにかく一面を飾るような記事ネタがなかったということなのだろう。
しかし一応この業界の最周辺部分で密かに生きている者にとってはそこそこに興味のある内容ではある。一応こういう記事なのだが。
http://book.asahi.com/clip/TKY200905290229.html
新聞社のサイトで記事内容にリンクはっても、しばらくすると消滅してしまう。だもんで、この記事はメモネタとしてちょっと長いけど全文引用しておく。

出版業界 地殻変動
ブックオフ株3社が取得 印刷・出版・書店一体化も
朝日 5月30日朝刊一面
 長引く不況の中、出版業界が激しく動いている。今月中旬、講談社集英社小学館の大手3社と大日本印刷グループが発表したブックオフ株の取得は、長く両者が対立してきただけに、業界を驚かせた。筆頭株主となった大日本印刷は今回の提携を主導したほか、主婦の友社や大手書店の丸善ジュンク堂などを次々に傘下に置いている。今後、新たな再編が生まれる可能性もある。
 出版社にとって新古書店ブックオフは、新刊本が売れない一因で、作者への還元もしない「敵」だった。今回の資本参加について、ある中堅出版社の社長は「もうブックオフの好きにさせないということ」とみる。
 ブックオフは約900店舗を全国展開し、本の売り上げは年間220億円を超える。出版社側には、むしろ取りこむことで二次流通市場をコントロールしようという考えがある。大きな狙いは、3社の売り上げが市場の6割強を占めるといわれるマンガ単行本(コミック)だ。08年の新刊コミックの推定販売金額は2372億円。ブックオフのコミック販売額は90億円強だが、新刊本の定価に換算すると数百億円になる。
 ブックオフ側も株取得を歓迎した。リーマン・ショック後に大株主の日本政策投資銀行系のファンドが株を手放そうとした時、取得を検討した中に新古書も扱う企業が含まれていた。業界の主導権を競争相手に握られたくなかったからだ。
 だが、出版社とブックオフの思惑は早くもずれている。
 講談社の森武文常務は「要請の第一が、コミックを含めて価値を創造する者へのリターン。次の作品が生み出される世界を構築してくださいということ」と話す。ある出版社幹部からは、ブックオフの売値の1〜2%程度を作者に還元することを求める声が上がっている。新刊が出たあと一定期間は店頭で売らないでほしいと要望も出そうだ。
 これに対しブックオフの佐藤弘志社長は慎重だ。「売値の1%でも小売業者にとって厳しい数字だが、それ以前に、中古本に著作権は及ばないと認識している。また、新刊本を一定期間売らないのは事実上無理」。一方で「出版社は定価のない自由価格本の販売にブックオフを使ってほしい。例えば洋服なら、デパートで売れ残ったらアウトレットに持って行く」と期待を込める。
 今回、出版3社にブックオフ株取得を打診したのは大日本印刷グループだった。大日本印刷凸版印刷に匹敵する業界最大手で、年間売り上げは約1兆5848億円。これに対し出版物の販売金額は業界全体でも約2兆円だ。
 株取得発表の直前には主婦の友社との資本・業務提携を発表したほか、昨年から今年にかけて図書館流通センター丸善ジュンク堂を次々に子会社化している。来春をめどに持ち株会社を設立予定だ。出版の上流から下流まで押さえたことになる。
 「一人勝ちを狙った覇権主義」と冷ややかな声もあるが、一連の資本参加の指揮を執る森野鉄治常務は「我々の原点である出版業界を活性化させたい」と強調する。傘下企業がその「実験場」になる。
 例えば、丸善ジュンク堂には大日本印刷が開発中の顧客情報管理システムを導入し、どんなコンテンツが望まれるかを把握する。このデータは、主婦の友社が発行する出版物の企画に役立てる。
 出版界はこれまで、出版社や、問屋にあたる大手取次会社主導で動いてきた。しかし一連の再編劇では取次会社はかやの外に置かれている。取次会社の中には当初、大手3社のブックオフ株取得に警戒感や懸念を示したところもあった。返品された本を出版社が安値でブックオフに流したら不利益になるからだ。出版社側がそういうことにならないと説明したため、現在は静観の姿勢を取っている。
 大日本印刷の動きは、出版不況への危機感から黒衣が表舞台に躍り出たように見える。業界には「大日本印刷はさらに巨大化するのではないか」という懸念もあるが、森野常務は「数ばかり増やしても仕方ない」。
 だが最近では、大日本印刷グループに対抗できるような書店連合や出版社の合従連衡のうわさ話が、業界内では具体名で語られるのが常になっている。(西秀治、竹端直樹、久保智祥)

大日本が主婦の友丸善、TRC(図書館流通センターのことね)、ジュンク堂を次々と子会社化しているのは一応耳にしていた。飲み屋的放談では大日本もなにやろうとしているのかね、みたいな話だ。今回のブックオフの株取得で大手コミック出版社三社をまきこんだのも大日本のオファーでみたいなことだとすれば、なんとなく、なんとなくだけどある種の輪郭みたいなものがみえてきたかな。
単なるあてずっぽうかもしれないが、キーワードはICタグなんじゃないのかな。いずれこの業界にもICタグが導入される。近い将来、ほとんどすべての出版物にICタグが埋め込まれる。そのICタグを製造する大日本と、出版物を発行する出版社、販売する書店、図書館への出版物の納入から運営代行までを行うTRC。さらには第二市場のブックオフまで。川上から川下までのすべてを傘下に入れてICタグの仕様を一元化させる。なんとなくそんなイメージである。
ICタグにそれほどの効能とか大きなビジネスチャンスがあるだろうかというと疑問点も多々あるのだろう。でもこれからの100年、すべての出版物にICタグが利用されるとしたら、それははかりしれないものがあるようにも思う。紙媒体は斜陽だろうって、いや紙媒体の製造、流通のモデルがそのままデジタル出版物に利用されるだけのことだ。さらにいえば、紙媒体はけっしてなくならない。官公庁の加除式法令だって、すべてがデジタル化、PDFにはならんだろう。すべての出版物に利用されるICタグというのはけっこう大きな魅力になるだろうと。
おまけにそのICタグには様々な付加情報を載せたりもできる。商品のありかから、購入者の嗜好までを把握できる可能性。
WEB上でアマゾンがやっていることがリアル社会でも行える可能性があると、まあなんて大風呂敷な。でも印刷屋が出版社、書店、図書館納入業者、古本市場までを傘下におさめるのは結局そういうことなんじゃないのかと、まあうがった見方だけど。
だいたい出版業界は川上の出版社が弱小含めるとほんとうに多数ある。川下の書店も最近はだいぶつぶれちゃいるけど、やっぱり多数ある。それでいてみんなが好き勝手にいろいろ言ってくれるから、なかなかまとまらない業界でもあるわけだ。そんななかで大日本は的確にポイントおさえるような戦略たてているような気もする。これでどっちかの取次あたりと提携でもしようものならなんか物凄いことになりそうな予感が。
ただし取次さんはあまり進歩的なことはできないから、大手二社と共同での提携みたいなことにもなるやもしれん。今回の講談社集英社小学館と同じようにね。
なんか業界が大きく変動するやもしれんな〜とも思う。もっとも私なんぞは10年くらいでこの業界からはおさらばするから、ある意味どうでもいいことなんだけど。