日帰りポーラ美術館

 午前中、兄の付き添いで埼玉医大国際医療センターへ行く。10時からの検査と診断はいつもより早くに終わり、兄を送り届けて帰宅したのは12時少し前のこと。兄は当面、心臓バイパス手術はペンディングになった。当面は投薬で様子を見るという。手術が年齢や透析をしていることなどから、難しいという判断が成されたのかもしれない。ある部分、兄は残り少ない人生を爆弾を抱えて生きることになるのだろう。とはいえ医師の診断なので、素人の我々としてはそれに従うしかないのが現実だ。取り敢えず当分の間は、兄の面倒を見ることで全面に出ることはなくなるのかもしれない。
 帰宅するとカミさんがすぐにでもどこかへ連れていけモードだったので、取りあえず出かけることにした。新年の美術館詣ではすでに西洋美術館と近代美術館へ行っている。お気に入りの美術館として頭に浮かぶのは箱根のポーラ美術館くらいか。そうだ、箱根へ行こうという安っぽいコピーのような思いつきでそのまま車を走らせることにした。圏央道が延伸し東名と接続したことの影響は大きい。鶴ヶ島からわずか2時間足らずで箱根まで着いてしまうのである。しかし圏央道もまたトラックの通行が圧倒的に増えた。確かに東名と東北とそれぞれ接続した首都圏の機関路線である。そうやって周囲に目をやると道路の周囲の環境が一新し始めている。とにかく物流倉庫、物流センターの類が猫も杓子状態で増えている。
 話は脱線した。ポーラ美術館の話だ。今は企画展「ルソー、フジタ、写真家アジェのパリ」をやっている。19世紀後半から20世紀初頭のパリの風景をアンリ・ルソー、フジタ、そして写真アジェの視点から捉えようという試みである。フランスの近代絵画から都市パリを読み解く試みともいえる。アンリ・ルソーは比較手作品が少ない部類の画家ではあるのだが、ポーラ美術館は6〜7点を収蔵している。それが一挙展示されるというのもこの企画展の目玉といえるかもしれない。
ルソー、フジタ、写真家アジェのパリ―境界線への視線 | 展覧会 | ポーラ美術館
 企画展の中でアンリ・ルソーの仕事、税官吏のことが説明されていた。ルソーといえば税官吏ルソーと称せられるほど有名だ。

ルソーは、パリ市の入市税関の官吏として、27歳から49歳まで働き続けました。入市税関とは、街に運び込まれる物品の税を徴収する役所のことで、建材からワインやパンなど食料品にいたるまで、全ての物品が課税対象でした。パリ市の境界線には20世紀初めまで城壁があり、税関吏はそこで監視にあたっていました。
入市税関の勤務は過酷で、勤務時間は16〜20時間、ときには24時間に及んだといいます。ルソーは勤務中に郊外の風景に目を凝らし、休日を絵画制作にあてていました。
企画展解説より

 この税官吏という職業、自分の感覚では空港の入国管理官のようなイメージでいたのだが、当時の税官吏というのは入市された物品が税を逃れたかどうかを確認するため市内の市場なりを巡回するような仕事だったということらしい。なんとなくデスクワーク、事務屋というイメージだったのだが、そうではなく市内を巡回して回るのが仕事だったのだ。そのためそれから数十年後に市内を彷徨しながら街の様相を写真に取り、絵葉書然として、あるいは絵描きに風景のモデルとして売り続けた写真家アジェが写真家のルソーと呼ばれるのは、二人がいずれも市内を日々彷徨していたからということなのだ。
 そう思うとルソーの絵には街の様々な容貌が描かれている。そしてその中には孤独な男の姿がいつも小さく描かれていたりする。それはルソー自身なのだが、彼は日々都内を歩き回りながら近代都市化したパリの中で近代人としての孤独感、寂寞感を感じていたのかもしれない。

 今回、ポーラ美術館へ行って大きな変化だと思ったのは、ほとんどの絵画が撮影OKとなっていたことだ。著作権者の死後50年で著作権が消滅するという現行著作権法の規定に則った措置なのだろうし、同時に絵画と美術館への敷居を低くする試みだとは思う。ほとんどの作品の撮影がフリーとなったのは西洋美術館、MOMATに次ぐものかもしれない。なにかお得な感じがしないでもない。
 どうせならポーラ美術館は模写も自由にしたらどうだろう。老後、箱根の別荘に移り住んで、毎日ポーラ美術館に通い、名画を模写する老画学生。なにか楽しくなるような気がしてならない。別に年寄じゃなくても、絵にうつつを抜かすお坊ちゃんが夏休みの間、箱根の別荘に住んでポーラに通うとか、イジメにあって学校へ行けなくなった少年(少女)が、遠い親戚の老婆が住む箱根の山荘でひと夏を過ごす。そして彼女に連れられてポーラ美術館に行き、名画を模写することでじょじょに回復していく。なんかその手の小説あったな、『西の魔女が死んだ』とかだったか。まあいい。
 という訳で(なにがだ)、大好きな名作を画像に収めた。その幾つかをアップする。