『ウェブ進化論』

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)
人に勧められて読んだ本なのだが、ここのところ読んだものの中では群を抜いて面白かった。もともとビジネス書は自分の範疇ではないのだが、少しだけ感想を記す。
まずこの本が今ちょっとしたベストセラーになっているらしいこと。アマゾンのベストセラー・ランキングでもここのところずっと上位に入っている。それだけ今ウェブ社会=ネット社会でおきていることへの関心が高まっているということなのだろう。もっと端的にいえばこれだけ日常的に普及したインターネットの技術面、社会面での様相と今後の動向に対しての人々の関心が増してきているということか。仕事や日常生活に普通に利用されているインターネットについて、「実際のところどうなのよ」という疑問にこの本は見事に答えてくれる。そしてネットの最新動向と今後についても俯瞰してみせてくれている。これは売れるわなとは率直に思った。
私にこの本を貸してくれたのは会社の同僚なのだが、彼が最初にこの本を紹介してくれた時の言葉がそのまま私の読後感でもあった。それは「この10年、俺は何をやっていたのだろう」ということ。ウィンドウズ95の発売以後の10年PCを巡る環境は激変した。商用あるいは民間でのインターネットの普及もその頃からだろう。それがブロードバンドや光の普及に伴い爆発的な形で利用に拍車がかかり今日にあるということだ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88
この本の主役でもあるグーグルの設立は1998年。ネットのあちら側に巨大な情報発電所を作り上げビジネスモデルを構築したグーグルはわずか8年でこれをやりとげてしまったのだ。気がつけば私自身もこいつからかグーグルをずっと利用し続けている。インターネットを利用する場合、もはやグーグル抜きにはネット利用は考えられない状況だ。その利便性の高さはそのまま検索エンジンとしての最も秀でたものだったということなのだろう。その単なる秀逸な検索エンジンが、ネットのあちら側でやり遂げたことは世界中の情報の整理構築であり、それを進めるための巨大なコンピュータ・システム=情報発電所を構築したこと、さらには検索連動広告(アドワーズ)や課金システム(アドセンス)というビジネスモデル作り上げたことだ。
ネットの普及とともに検索エンジンが最も必要かつ不可欠な道具となることは誰でも考えることができた。しかしそこから情報発電所やビジネスモデルを次々に構築するという発想や技術力は凡人には想像もできなかったことだ。本書によるとグーグルにはシリコンバレーの天才たちが次々と結集しているという。つまりは世界中のコンピュータの天才たちが集っているということだ。グーグルの躍進の背景を知るほどになるほどと思わせるところが多々あった。
ひるがえって自分のことを考える。PCを使って仕事をするということで言えば、MS-DOS、それ以前に今では誰も覚えていないだろう簡易言語PIPSを経験しているから20年以上経過している。ずっとPCを道具として利用してきた立場からすると、この道具がここ10年飛躍的に発展を遂げた時流に乗り遅れたことへの悔いの念にかられてしまう。それがまんま『ウェブ進化論』を読んだ時の感想、「この10年自分は何をしてきたのだろう」につながってくる。
インターネットを利用し始めた時に幾つかのビジネスモデルは連想できた。でもそれはたいていの場合、ネットのこちら側、リアル社会のビジネスにどうネットを活用するかという視点だったように思う。それに対して本書でも頻繁に取り上げられるネットビジネスの成功者グーグルやアマゾンがネットのあちら側にビジネスモデルを構築してしまったことだ。このへんのギャップがある意味、勝ち組、負け組みということなんだろうとつくづく感じた。
本書はネット社会、ネットビジネスの現在と今後についてのある意味バラ色の可能性を提示してくれている。さらにはコンピュータが普通にビジネスや生活の道具として普及した今日の自分自身の位置をも確認できる。相変わらずコンピュータに振り回される人生を送っている人々、日進月歩の技術の進歩を摂取する気力も失せつつある中年にとっては悲哀を感じるだろう。未来ある世代には今後のビジネスへの指針を見いだすこともできるだろう。出来れば若い人々に読んで欲しい本でもある。本書にもあるとおり「携帯とブロードバンドでは世界一のインフラを持つ日本で育った若い世代」が、米国に負けない技術力をネットのあちら側で構築してくれることを、そんな可能性を次の世代に期待したくなった。
脱線してしまうが、ネットをくぐるとPIPSは今はフリーソフトとして細々と健在であることが確認できた。かって利用した者としては嬉しくもありだ。昔はあれ使って販売管理や仕入管理のアプリケーションとか作ったんだよな、などという意味もない感慨を覚える。今、同じものをVBAとかで作れといわれてもできない。今となってはあの情熱はどこへ行ってしまったのだろう。
http://www.vector.co.jp/soft/win95/business/se118401.html
http://www.pips.gr.jp/