初めての外泊2

前夜、2時半に就寝したのだが、4時過ぎには妻のトイレで起こされる。夜中もしくは早朝にトイレにいく週間ができているのだろう。私は二階で寝ていたので、妻と一緒に寝た娘が私を起こしにきた。我が娘もえらいやっちゃ。
その後は8時に娘は一人で起きてスイミングに行った。妻はすでに起きていたようで、二階に連れていきコタツでテレビを観させる。私はまた布団に戻りうつらうつら。結局10時ちょっと前に起きて簡単な朝食を妻にとらせる。昼食は前夜の残りとほうれん草のオムレツを作りけっこう豪華に。娘と三人でおいしく食す。
午後、なかなかトイレに行きたがらない妻がトイレというので、すぐに連れていったのだが、わずか数メートルの距離なのに間に合わず。おまけに大のほうだった。便通については二、三日ないのが普通だったりするらしいのだが、前日も前々日も便通があったので安心していた。それが自宅にきていきなりである。環境の変化もあるのだろうか。下痢便ではなかったので後片付けは比較的簡単にすんだ。
3時頃までは妻と娘は二階でテレビを観て過ごした。私は自室でPCやったり、音楽を聴いたり。昼までに病院へ行くみたいな時間に追われることがないのが精神的にすごく楽だ。妻の退院後もこんな風に週末を過ごすことになるのかなとも思った。
病院へ帰る前に短時間、4点杖の訓練を行う。小学校まで車椅子で行き、グランド脇を歩行練習させた。距離にしてだいたい100メートル前後か。病棟に比べて微妙に段差があるので、妻はかなり疲れるようだった。国リハの訓練室や病棟内でいくら歩行ができても一般の歩道とかでの訓練が進まないと使い物にならないとはよくいわれることだが、これから一月半の間に何回か行う外泊でも、こうした練習を何度も行わなくてはならないのだろう。
4時過ぎに病院に戻るために車で出発。ちょうど家と病院の中間くらいまできた時に妻が再び便意を訴える。なんとか病院まで戻ったのだけれど、車から車椅子に乗り移る時にアウト。少しもらしてしまった。そのまま一階のトイレに連れていった際には残りの量も出た様子。後始末を考えると三階病棟のトイレのほうが楽だと思ったので、三階病棟に直行した。トイレでズボンやパンツを脱がせて便座に座らせると、完全な下痢便で広範囲に広がっている状態。とても一人では対処できそうもなかったので、ナースステーションに看護師を呼びにいった。担当看護師ともう一人若い看護師がすぐに行きますと返事をしてくれる。それからトイレに戻ってから床についた便などを少し拭いたりしていると、若い看護師がきてくれた。担当看護師は準夜で、この時間帯は若い方が担当ということなのだろう。
看護師は衣服を脱がせ、股から太ももにかけてべっとりついた便を拭いたりと一生懸命対処してくれた。「ちょっと汚れがひど過ぎますね」と声をかけると、看護師も「シャワーかけますか」と。それで看護師が紙オムツを持ってくる。私は病室からバスタオルを持ってくる。紙オムツを車椅子に置き妻を座らせてから下半身にタオルをかけて風呂場に直行。妻をシャワーの前に立たせて看護師がかいがいしく洗ってくれた。
妻は綺麗にしてもらってから、今夜一日は念のためリハビリパンツを履かせて新しいジャージを着せる。それから看護師は浴室から汚物処理室に移動して、汚れた衣服をざっと水洗いしてくれる。仕事とはいえ大変だなとも思う。横で見ていて、「ざっといいですから」と声をかける。パンツは便がべっとりついて変色してしまっているので、「これどうしますか」と看護師が聞いてきたので、迷わず「捨てましょう」と返事をする。昨日買ったばかりのスニーカーにも少し便が着いていたので、それは私がざっと洗いジャージと一緒に袋に詰めた。
結局のところ食べすぎが原因だったのだろう。夕飯にしろ昼食にしろ以前の妻に比べればずいぶんと少食になっていたのだが、それでも病院食に比べてみればおかずの量も半端じゃないわけで食いすぎたということだ。これまでにも土日の外出でファミレスとかで昼食をとった翌日とかにこういうことが何度かあったと看護師から話を聞いた。今後の外泊時にはもう少し量とかも調整しなくてはいけないだろうし、トイレについては本人のいきたい、まだいきたくないに任せることなく時間を見て連れて行くということをしばらくは徹底させる必要があるのだろう。
妻はこの一連の騒動の間も割とひょうひょうとしている風でもあった。時々、「そこはもう少し丁寧に拭いたほうがいいよ」みたいはコメントめいたことを話す。看護師と私は、「なんか本人が一番冷静みたいだ」と苦笑いをしてしまう。そういうのが障害の影響によるものなのかはわからない。でも、頭がしっかりしていたとしても、片麻痺で他者にすべてを任せる以外に対処のしようがない彼女としてはいたしかたない部分もあるのだろう。一番つらいのは彼女自身なのだから。
しかし正直言うと、家でやられていたらけっこうしんどかっただろうなとは思った。そう思いつつも自宅での生活の中ではこうした場面がこれから何度もやってくるのだろうとも思った。総じて今回の外泊の感想については、看護師にも伝えたことだけど、初めてということでの緊張が家族にしろ、本人にしろあったのだろう。正直、しんどかった。でも、結局妻も私も娘も慣れていく以外にしようがないのだろうとも思った。障害者のいる家庭にあっては多分普通に起きることなのだろうから。
でもね、こういう日常で家族も本人も徐々に磨り減っていく。これが在宅介護(看護)の実態なのではないかとも思う。今、この国が推し進めている施設から在宅へという施策の流れにはそうした日常への視点がどうにも欠けているのではないかとも思うのだが。
よく2ちゃんとかで書き込まれる、障害者への悪意ある書き込み。「なんで障害者の介護に俺たちの税金が使われなくちゃいけないんだ」みたいな無神経な書き込み。たぶんそういう書き込みしている奴らはたいてい親のすねかじりの自己中心的な人々のようにも思うが、彼等の無神経さが国の施策の後押しをしているようにも感じる。他者への思いやりの視点の欠如。障害者やその家族への無関心。まあこのへんについては別の機会があれば少し考えをまとめてみたいけど。