高次脳機能障害

 妻は発症以来、言葉、記憶等については健常時とさして変わらない印象だ。発症してすぐは、自分がどこにいるのかわからない状態だったが、すぐに病院にいることや左半身のマヒなど自分の状況は把握している。医師のこれまでの話を総合しても、大きな脳梗塞巣があること、左半身マヒ以外の障害については今のところないようだ。
 ただ日々彼女と話していると、次々欲求がでてくる。「冷たい水が飲みたい」「牛乳が飲みたい」「りんごが食べたい」「車椅子に乗りたい」「外へ行きたい」「ベッドに戻りたい」。くるくると話が変わる。「医者から許可が出たから今日外泊する」「ビール飲んでもいいといわれた」。医師からの説明は「良くなって、おうちの受け入れ体制ができたら、おうちに泊まることもできますよ」「良くなったら、多少のアルコールも飲酒できます」。
この良くなったらの部分がすべて捨象されている。
 病人特有の我侭だと思えればいいのだが。そういや結婚前に耳の手術で10日ぐらい入院した時もそこそこ我侭ばかり言っていたっけ。でも今回の場合、病気が病気なだけに、意識や思考にも障害が出ているのではないかと関連付けてしまう部分もある。

高次脳機能障害とは、大脳の一部が損傷を受けたため、言語、思考、記憶、行為、学習、注意などの機能がうまく働かなくなった状態を指す。特徴としては、外見上障害が目立たない。本人自身も障害を十分認識できない。障害は病院内より在宅の日常生活で顕著になることが多い。主要な障害としては以下のものがあげられる。
・注意障害
 基本的に注意量が減っている状態で、言動にまとまりがなく気が散りやすくなる。
・記憶障害
 ものの置き場所を忘れたり、何度も同じことを言ったり質問したりする。今日の年月日が 言えなかったり、自分の居場所がわからなかったりする。
・行動と感情の障害
 気持ちが沈みがちで、うつ状態になったり突然興奮して怒り出したりする。大脳の病変だ けでなく元々の性格や麻痺が残ったという心の問題が要因になったりもする。
・半側空間無視
 右大脳半球の病変で左側の視野を無視する状態。この状態の患者が花の絵を描くと右側部 分だけの絵を描く。
・遂行機能障害
 何か問題が起こったとき、それを解決するために動員される一連の認知・行動機能を総称 して遂行機能という。問題解決能力に近い概念。この障害の場合、計画を立てたり、段取 りや手順を考えて適切に行動することができなくなる。
・失効症
 麻痺はないのに、ある運動、動作、行為がうまく行えない状態。
・地誌的障害
 よく知っているはずの近所で道に迷ったり、自宅でトイレにたどりつけなかったりなど、 地理や場所に関する障害。
・半側身体失認
 自分の半身に対する認知の異常を総称していう。麻痺した手足がないように振舞ったり、 「私は歩けます」と言い張ったりする。
・失認症
 あるひとつの感覚を介して対象物を認知することができない状態。絵を見せられてもそれ が何かわからない視覚失認。顔だということはわかっても誰の顔かわからなくなる相貌失 認。聴力はあるのに語音だけ知覚できなくなったり、環境音(犬の鳴き声や電車の音な  ど)の知覚・認知ができなくなる聴覚失認などがある。

 たいていの医学書を読んだ時の感想と同じように、あたっている部分もあり、そうでない部分もある。例えば胃の調子が悪いとかで家庭医学の本とかを読むと、自分の症状が胃がんの初期症状に合致してたりしてえらく不安になったりする。あれと同じ感覚だな。
 今の病院ではたぶんそのへんの検査とかはされないだろう。なんたって脳外科だから。次の病院でそのへんも詳しく検査してもらうことになるのかもしれない。しかし身体的な障害の他にも感覚や思考等にも障害が出てくるとしたら問題だな。つくづく脳梗塞という病気、脳の病変の恐ろしさを実感しつつある。
 今日は仕事の後、子どもを学童に迎えに行きその足で病院に向かう。妻は相変わらず元気といえば元気、麻痺した左半身にも大きな変化もない。前日、たまっていたパジャマ類、タオル類をすべて洗濯して持っていっていたのだが、もうパジャマが二着汚れていた。それで初めて病院のコインランドリーを利用した。洗濯一時間、乾燥一時間。パジャマとか厚物が乾くかどうか気になったが、乾燥機二台に小分けして使ったのでうまく乾いてくれた。けっこう便利だ。
 帰宅したのは10時半頃。弟のカミさんが病院に「お兄さん食べてください」と買ってくれた回鍋肉の素を使ってざっと料理して食す。娘は車中で寝てしまったのですぐにベッド行き。さすがに金、土、日、月と四連荘はけっこうきている。風邪なのか疲労のせいなのか頭がずきずきする。これで私まで脳卒中にでもなったら笑いごとじゃないな。