高次脳機能障害家族学習会

 十日以上前の話だが、国リハで毎月行われている家族学習会に参加したときのことを記憶をたどって書く。確か19日のことで、半休をとって参加した。
 国リハで高次脳機能障害を専門にされているM医師から「高次脳機能障害」についての講義があり、ついでMSWのS氏から「社会資源の利用について」の講義があった。その後は参加者の自己紹介等と簡単な質疑応答で2時間を終えた。

●高次脳機能とは
 人間の脳にある、記憶、注意、遂行機能、言語など人間が生きていく上での重要な機能。
●脳の特徴
・脳神経細胞は再生しない。
・脳神経細胞は長生き。
・脳神経細胞は回復に時間がかかる(障害の場合)。
・脳神経細胞は部位によって機能が異なる。
・脳神経細胞はお互いに連結することで機能を果たす。
●高次脳機能障害の評価(検査)
① 脳損傷の評価
  病歴、神経学的診察、画像診断など
② 神経心理学的検査
  症状から脳の損傷との関連をさぐる
③ 日常生活行動の評価、観察
④ 受傷(発症)前の状態の評価
  病前性格、社会適応、職歴など
●高次脳機能障害は治るのか
① 失われた機能は戻らない
 今後の脳神経細胞の破壊をいかにして防ぐか
② 急性期治療とその後の脳保護が重要
 酒、煙草など脳神経細胞を破壊する日常的習慣をとりのぞく
③ 治療には時間がかかる
●高次脳機能障害への働きかけ(治療・リハビリ)
① 回復的アプローチ
 個々の機能障害の回復、改善させるための訓練
 ただし、障害自体の完治はありえない。
② 代償的アプローチ
 ・代償手段
 ・環境調整
 ・障害認識の向上
③ 多職種チーム・アプローチ
 医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語療法士、心理などの専門職担当者が集まってお互い連絡をとりながらリハビリテーションプログラムを実施していく。
●社会資源の利用について
 社会資源とは社会保障制度や社会福祉サービスなどの公的支援制度。社会資源の利用とは こうした公的支援制度を有効に活用していくこと。
●申請制度
 日本の社会保障制度はすべて申請して初めてサービスが受けられるようになっている。
●医療費の支払いに活用できる制度
 ・労災保険
 ・自賠責
 ・健康保険
 ・老人保険
 ・国民健康保険一部負担金減免制度
 ・高額療養費助成制度
 ・高額療養費貸付制度
 ・通院医療費公費負担制度  など
●経済的な補償に関する制度
 ・傷病手当金(健康保険)
 ・休業補償(労災保険)
 ・公的年金
 ・自賠責
 ・生活保護 など
●その他のサービスを受けるには
 ・介護保険による要介護認定
 ・身体障害者手帳
  身体障害を伴った高次脳機能障害の場合
 ・精神障害者保健福祉手帳
  身体障害を伴わない場合は、脳器質性精神障害として申請する
●障害者自立支援法
 2006年4月より一部実施され、5年をかけて全面的実施にいたるもので、これまで障害種別に異なる法律のもとで提供されていたサービスを一元化するもの。
●障害者自立支援法の5つの柱
①障害者の福祉サービスを「一元化」
 サービス提供主体を市町村に一元化。障害の種類(身体障害、知的障害、精神障害)にか かわらず障害者の自立支援を目的とした共通の福祉サービスは共通の制度により提供。 
②障害者がもっと「働ける社会」に
 一般就労へ移行することを目的とした事業を創設するなど、働く意欲と能力のある障害者 が企業等で働けるよう、福祉側から支援。
③地域の限られた社会資源を活用できるよう「規制緩和」
 市町村が地域の実情に応じて障害者福祉に取り組み、障害者が身近なところでサービスが 利用できるよう、空き教室や空き店舗の活用も視野に入れて規制を緩和する。
④公平なサービス利用のための「手続きや基準の透明化、明確化」
 支援の必要度合いに応じてサービスが公平に利用できるよう、利用に関する手続きや基  準を透明化、明確化する。 
⑤増大する福祉サービス等の費用を皆で負担し支え合う仕組みの強化
(1) 利用したサービスの量や所得に応じた「公平な負担」
 障害者が福祉サービス等を利用した場合に、食費等の実費負担や利用したサービスの量等 や所得に応じた公平な利用者負担を求める。この場合、適切な経過措置を設ける。 
(2) 国の「財政責任の明確化」
  福祉サービス等の費用について、これまで国が補助する仕組みであった在宅サービスも 含め、国が義務的に負担する仕組みに改める。

 一部を厚生省のHP等からも引用した。特に障害者自立支援法のあたりについてだ。この他、質疑応答では高次脳機能障害認知症との関連について聞いてみた。M医師の回答は明確だ。高次脳機能障害の症例はほとんどが認知症の範疇に含まれるという。所謂「正常に行ってきた知能活動、知能行動が失われる」症例ということだ。ただし認知症という用語自体最近使われだしたものだが、医学の世界ではもっぱら痴呆症として扱われているという明快な答え。ただし進行性痴呆症(アルツハイマー症)とは異なり症状に進行はないが、患者のストレス等により症状が進んだように見える場合も多いという。
 薄々気がついてはいたことだが、要は高次脳機能障害とは、脳器質性障害による認知症のことなわけだ。そして認知症自体が痴呆症が差別的に使われる場合が多いことから近年採用されてはいるわけだが、早い話が痴呆という古くから言われている病状ということ。そして、妻は脳障害によって痴呆症になったという事実が厳然とあるということだ。
 いろいろと関連書を読んでみて、たぶんそういうことなんだろうとは思ってはいたけれど、やっぱりどこかでショックでもある。脳の障害による痴呆症、そしてそれはある程度の機能回復はあったとしても、完治することはないのだ。おまけに妻には重篤片麻痺がある。つらい現実が改めて再認識されてしまった。
 その後の参加者の自己紹介のなかでは、交通事故による脳挫傷から障害が発生したケースなどが多数あり、今回の参加者の中では脳梗塞による障害はうちだけのようだった。自転車の事故によって脳挫傷を負い、車椅子で無気力な状態に陥っている12歳の子どもをもつ母親。バイクの事故により記憶障害を伴った独身40代の男性を一人で介護している老いた母親。みんな涙ながらに闘病を続けている家族の現状を話していた。みんなそれぞれに事情があり、訳隔てなく悲惨な、悲劇的な状況に追いやられてしまっている。共感しあえる部分も多々ある。妻があと何ヶ月この病院に入院できるかはわからないけれど、機会があれば参加したいと思う。障害者をもった家族が病気への理解を深めるためにも、こういう場は必要なんだろうとはつくづく思った。