スマホを探しにいく

 昨日、妻の糖尿病外来の通院につき合って、夕方近くに駅向こうのかかりつけ医まで行く。小1時間の診察の間、近くのマックでボーっとして過ごす。アイスコーヒーとアップルパイで300円くらいだったか。最近はスタバにもあまり行かなくなったか。

 診察が終わってから妻を迎えに行く。その後、妻が散歩したいというので近くの緑道まで行ったのだが、その前に妻は公衆トイレに入った。

 帰宅後、夕食が終わってから妻のスマホの充電をしようと思い、スマホはどこにと聞くと判らないという。自分の電話からかけてみても呼び出しはするが、家の中で着信音はない。多分、どこかに置き忘れてきたか落としたか。妻曰く、少しポケットの浅いスラックスを履いていたので、トイレのときどこかに置いたかもしれないとも。

 公衆トイレに入ったのは6時少し前なのだが、ダメ元で探しに行くことにした。トイレになければ緑道まで行き、電話をかけながら落ちてないか探す。最終的には交番に届ける、そんなことを頭の中で段取りする。

 家から駅までの道、途中寄った駅前のスーパーの前あたりを懐中電灯を照らして探しながら行く。それから駅向こうにある公衆トイレまで行く。トイレのすぐ手前には交番があるので、もし誰かが見つけてくれ、善意の方であれば交番に届けてくれるかもとかを考えていた。

 トイレを開けると自動で電気がつく。と、壁にちょっとした段がありモノが置けるところにスマホはあった。ホッとしてすぐに自宅に電話をした。妻は心配していたようで、電話口で「よかった、よかった」と繰り返した。

 妻がトイレにスマホを置き忘れたのはこれまでにも何度もある。スーパーのトイレに忘れたこと、ファミレスで食事をした後のトイレで置き忘れたこと、などなど。一番よく覚えているのが、草津の道の駅のトイレに置き忘れて、それに気づいたのが高崎だったか。夕方の時間で、草津まで戻ったのは8時を回っていた。いずれの時も幸いなことにスマホは見つかった。スーパーもファミレスも電話すると、「お預かりしています」と言われすぐに取りに行った。草津の道の駅の時は、まず着いてから電話をかけると女子トイレの方で着信音がして、ホッとしたのをよく覚えている。

 妻の病気は、身体的には左上肢下肢機能全廃、いわゆる片麻痺というものだ。それ以外にも前頭葉、右側頭葉に大きな梗塞巣があり、発症当初から高次脳機能障害があるといわれた。高次機能障害には様々な症状があり、発症当初は認知機能も大きく低下していたけれど、リハビリによって改善された。最終的に残ったのが注意障害だった。

 注意障害には以下のような症状がある。

1. 容量性注意障害:一度に意識できる範囲や容量が狭くなります。
例:ふたつの事が同時に行えない、うっかりミスが増える
2.選択性注意障害:必要な刺激や情報に注意を向ける事ができなくなります。
例:多くの商品から適切な商品を見つけられない。物音がするとそちらに注意がそ れて続けられなくなる。
3.転換性注意障害:特定の対象に強く固着してしまい、他の対象に対して注意を速やかに切り替えられなくなります。
例:他のことに注意が散り目的に沿った行動ができない。または一つの作業から切り替えられない。
4.持続性注意障害:注意を一定の状態に保ち続けることが困難になります。
例:集中を保つことが出来ない、ミスが多い、考え事をするとすぐ疲れてしまう。
5.配分性注意障害:複数の活動を実行したり、順序よく実行することができなくなります。
例:電話をしながらメモを取れない、料理で他のことをしていて鍋を焦がしてしまう、車の運転で周囲に気を配れない

  スマホを置き忘れのはおそらく2.の選択制注意障害か5.の配分性注意障害なのかもしれない。スマホを脇に置いてトイレをすます。するとスマホを置いたことを忘れる、ということだ。まあ以前から料理をしていて、電話を取ったりテレビに気を取られると、それこそガスに火をつけていたことを忘れるなんてことで危ないこともあった。

 発症してすでに15年以上が経過して、身体的には当初から症状は固定化されていると医師からは宣告されていた。ようはよくはならないということだ。そして使える方の右半身が衰えてくることで、日常生活に支障が生じるとも言われてきた。機能維持とは健常な部分が衰えないようにということ、そのうえで片麻痺の部分は拘縮など、それ以上悪化しないようにということを考えながらリハビリを続けるということだ。

 目に見えない高次機能障害についてはどうか、日常生活の中では本人、家族がそれぞれチェックをしながら支障がでないように注意していく、そういうことでしかない。とはいえ、今回のスマホのようにチェックを怠ると小さな事件となってくるということだ。

 高次脳機能障害についてはある意味新しい病気ともいえる。治療法、症状が悪化するのかどうかもわからない。妻が入院している時に高次脳機能障害の家族学習会に出席したときに、専門医から詳しい説明を受けたことがあった。その中で高次脳機能障害認知症の違いについて、医師はほとんどの高次脳機能障害の症状は認知症の範疇に入ること、医学的には高次脳機能障害は痴呆症として扱われるという説明があり、自分を含め、多くの家族が落胆したことを覚えている。

高次脳機能障害家族学習会 - トムジィの日常雑記

 今回のことで妻を叱ることはなかったし、とにかく気をつけて欲しいとだけ伝えた。妻は久しぶりの大きな失敗で、かなり落胆しているようだった。とはいえ割とすぐに復活すること、失敗を大きく抱えてしまうこともないのも、この病気の一つでもある。

 まあこういう忘れ物についていえば、自分が探しにいくなど後処理すればいいだけのこだと割り切るしかない。幸いなことにスマホがそのまま誰かが持ち去り悪用するみたいなことを一度もない。しかし夕方、公衆トイレに置き忘れて、そのまま5時間近く放置されているというのも、我が町はかなり安心安全というか、人出も少ない田舎なんだろうなと、そんなことも思ってもみた。