『バービー』を観た (9月9日)

 土曜日は吹奏楽のコンサートに行き、速攻帰宅。その後、妻と二人で近所のサイゼリヤで飲食。まあ子どもの演奏聴けたし、親バカ的にはコンサート大成功で乾杯と。

 最近、二人でパーッとやる場合の定番がサイゼリヤ。二人で中生二杯ずつ飲んで、ピザだのハンバーグだの食べて、とどめに自分はワインをデカンタで飲んで・・・・・・。それでも5千円弱でおさまる。年金生活のジジババにとってサイゼリヤは神的な場所だな。

 それからすぐ帰ればいいのに、ちょっとスーパーにでも寄ろうかとなって、ご近所の小さなショッピングモールに。そこには小ぶりのシネコンがあるので、『バービー』まだやってるかと思ったら、ちょうどレイトショー9時5分からがある。あと15分くらいというところ。というか『バービー』はもはやレイトショーだけしかやっていない。やっぱり日本ではこの手の映画は難しいのかな。このままだと地元ではもう公開終わってしまうかもしれない。

 ということで勢いで観ることにした。妻も賛成したけど、多分寝ると思う。案の定始まってすぐにお休みになられた。

映画『バービー』オフィシャルサイト (閲覧:2023年9月11日)

バービー (映画) - Wikipedia (閲覧:2023年9月11日)

 

 面白かった。もの凄く面白かった。メチャクチャ面白かった。

 前評判は聞いていたけど、それ以上かもしれない。フェミニズム映画、性の多様性、ジェンダーをテーマにした映画であるとか、あとアメリカで大ヒットしているとも。とはいえストレートにそういうテーマを持ってくるのではなく、あくまでポップで笑かし的である。このへんがやはりショービジネス大国アメリカ、ハリウッドの真骨頂かもしれない。

 冒頭からしてあの『2001年宇宙の旅』のバロディである。赤ちゃん人形のお世話するお遊びにあけくれる少女たちのもとにモノリスならぬ水着姿のバービーが突然現れる。そして啓示を受けた一人の少女が、赤ちゃん人形を大地にたたきつけ、空に投げ上げる。レイトショーで数少ない観客の中で大爆笑してたのは、自分とやや後ろにいるオジサン、オバサンのカップルくらいだったろうか。これ、アメリカでは多分大爆笑なんだろうなと思ったり。

 そしてピンクに彩られたバービーワールド。そこにはバービーとバービーのボイーフレンドしかいない。バービーは商品化された様々なバービーがいる。大統領、医師、サッカー選手などなど。その中心にいるのが定番バービー、マーゴット・ロビー。そして彼女の永遠に曖昧な関係のボーイフレンド・ケン。これを演じるのはライアン・ゴズリング。超一流の売れっ子俳優なんだから、役を選べよという気もするが、よくぞ演じたと思ったりもする。ゴズリングの役者魂も凄い。

 幸福でお気楽な生活を送っている定番バービーは、あるとき「死」について考える。するとそれまでのお気楽なバビーワールドに少しずつズレが生じ、定番バービーにもそれまでではあり得ない変化が訪れる。その問題を解決するためには、人間の世界でバービ人形持ち主と出会い、持ち主の問題を解決する必要がある。定番バービーとケンは二人で人間の棲む現実世界に向かう。それは二人の自分探し、アイデンティティを見つける旅でもある。

 何の悩みもないかわいい服を着たかわいい女の子としてバービー。そしてあくまでバービーの添え物的な存在である永遠の曖昧な関係のケン。二人ともバービーワールドの中では性的な機能を有していない。かわいい人形とその曖昧な関係のカッコいいボーイフレンド。彼らはリアルな人間社会で自分たちの存在の虚構性と向き合う。そして矛盾だらけの人間世界に対峙していく。

 そして女性とは、女らしさとは、かわいい少女とは、その相手役たる男とは、男らしさとは、男のカッコよさとは、そうした社会的役割の欺瞞性や矛盾、まさにジェンダー、社会的性差がつきつけられる。それま正攻法に真面目かつ重くとは真逆な笑かしとして。

 よく出来たなと思う。これは脚本と演出の勝利。監督のグレタ・ガーウィグは『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を撮った女性監督。脚本は彼女と彼女のプライベートでもパートナーであるノア・バームバックの共作。『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイライフ』は、シアーシャ・ローナンが主演している。『ブルックリン』以来気になる女優で、いつか観なくてはと思っているのだけどなんとなくそのままだ。

 そして主演はマーゴット・ロビーハーレイ・クインシャロン・テート役をやっていたり『スキャンダル』でセクハラ被害を受ける若手リポーターやっていたかと思いきやいつのまにかトップ女優になってしまったって感じ。

 

 多分、ジェンダーやセクハラといった重いテーマは、ハリウッドでは、あるいはアメリカ的には社会派ドラマとして正攻法で描くより、こうした笑かしの中で扱う方が受けがいいのかもしれない。例えば『SHE SAID』とかと比べても、多分作品的に上かもしれない。あれはあれで正攻法の社会派ドラマでけっこう好きなほうだけど、笑かしの中に社会の矛盾、ジェンダーの問題ををくすぐるという方が了解可能なんだろう。

 すでに全世界で10億ドル(約1400億円)の興行収入を得ており、女性監督の作品としては史上最高の作品になるのだとか。もっとも世界的ヒットとは裏腹に日本での興行収入はやや不振とも。日本ではこういうポップな笑かしは受けないのか、いやそれ以前に日本ではアニメとアイドルもの意外は多分ヒットしないのかもしれない。そういう文化というかなんというか。

 さらにいえば、日本にはリカちゃんという不動の存在があり、もともとバービー人形はあまり売れていないという事情もあるかもしれない。しかしもしリカちゃんを実写映画化したとしても、『バービー』のような社会性、ジェンダーをはらんだ笑かしが出来るか。メーカーのマテルの全面協力のもとでマテルを諧謔的に描くようなことが、タカタトミーに出来るかどうか。全部、微妙な気もするし、たぶん実写化となるとアイドル使った甘々な映画になるような気もしないでもない。まああんまり考えないようにしよう。

 

 多分、『バービー』は来春のアカデミー賞ではけっこうノミネートされるかもしれない。ひょっとすると監督賞と主演女優賞はけっこう堅いかもしれない。個人的にはライアン・ゴズリングに助演ではなく主演男優をあげたい。その価値あると思うんだけど。