ダンスウィズミーを観た

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  矢口史靖の『ダンスウィズミー』を観てきた。

 子どもが何か映画を観たいというので、『ライオン・キング』は嫌。『ダンス・ウィズ・ミー』ならいいというと、不承不承いいということになり、家族三人でレイトショーで観た。まあ矢口史靖だし、さほど外れはないだろうとか、矢口初めてのミュージカルというのに興味もあった。

 観た感想はというと、まあ面白かったけど今一つというところかな。脈絡もなくすぐに歌いだす、踊りだすミュージカルを逆手にとってとって、催眠術で音楽を聴くと歌いだす、踊りだすという設定の必然性が実はあまり面白くない。ミュージカルとはしょせんそういうものなので、これを21世紀にやる意味があるのかということだ。

 この手の必然性を逆手にとってミュージカルを仕立てるというのは、多分70年代から80年代だったら良かったかもしれない。陽気に歌い踊る、基本ボーイ・ミーツ・ガールであるミュージカルにドラマ性、社会性がないという批判から、社会派ミュージカルが生まれた。かの『ウェスト・サイド・ストーリー』と『サウンド・オブ・ミュージック』だ。

 しかしこの二大傑作を最後にこのジャンルは消滅し、ミュージカルも1960年代後半には衰退した。ハリウッドのミュージカル、MGMミュージカルのオアージュとしてフランスでジャック・ドゥミが『ロシュフォールの恋人』という名作を作ったが、多分それが最後になった。

 そうしたミュージカルの終焉期であれば、この歌って踊ってを必然化する話はありだったかもしれない。しかしだ、わざわざ21世紀にあってこの設定はとてつもなく古さを感じさせる。ましてや本場アメリカでは『ラ・ラ・ランド』という傑作ミュージカルが生まれているのだから。

 なのでこの映画は基本ミュージカル映画として観てはいけないのかもしれない。これは矢口史靖のコメディである。自分は映画の最初の15分くらいで自分にそう言い聞かせて気持ちを切り替えた。これはミュージカル映画ではない。

 そう割り切ってみると、いつもの矢口のドタバタ映画である。そうだな『秘密の花園』とかに近い。ロードムービーの要素もあり、女同士の友情ありで、主人公たちの自分探しの物語でもある。

 そうだこの映画にはミュージカル映画に必要な恋愛がないのである。歌って踊って女の友情である。これが根本的な間違いなのかもしれない。やはりミュージカルには恋愛が、ボーイ・ミーツ・ガールがなければならない。

 俳優陣はというと主役の三吉彩佳はスラっとしてダンス・ナンバーもそれなりにこなすが歌は今一つの印象だ。新進のモデル、女優で、元アイドルなのだとか。基本、美人であり雰囲気もある。もう少しダンスを頑張ればシド・チャリシーを目指せるのにとか一瞬思ったが、シド・チャリシーはドタバタはやらない。

 そしてだ、映画の狂言回しでもある老催眠術師約の宝田明だが、懐かしいし、彼が怪獣映画だけではなく、往年の東宝の二枚目スターであり、ミュージカルも多数こなしているのはわかるけどやっぱり85歳はちとしんどいか。この役はキーにもなるし、出来ればもっと踊れる老人をもってくるべきではないかと思う。そう踊って主人公をエスコートするようなタイプだ。そうすればヒロインを催眠術にかける場面もミュージカルナンバーになったのではないかと思う。

 自分のイメージでは完全に晩年のフレッド・アステアジーン・ケリーあたりなんだが、日本だとそういうミュージカル・スターはいないな。思いつくのは篠原涼子のだんなの市村正親とか松本幸四郎じゃなくて白鸚あたりだろうか。彼らなら色気もあるし、ダンスナンバーもこなせそうな気がする。まあ出演料的にどうか微妙なところもあるけど。

 観終わって、子どもの感想はどうかと顔を見るとどうにも不満そうな感じだ。主人公の演技とか踊りがちょっと見ていられないような感じだったとか。そのうえで、ミュージカルというよりもコメディ色が強いので、この役はキレイな娘よりももう少し演技にふった方がいいみたいなことを言い出した。

「この役は高畑充希だと思う。彼女ならミュージカルの経験豊富だしうってつけ」

 なるほど言われてみると本当にその通りだと思う。彼女なら歌って踊って、おまけにドタバタもうまくこなしてくれただろう。もしかしたら彼女の代表作になったかもしれない。

 まあいろいろと注文がつけたくなる映画ではあるのだが、それなりに面白かったということは付け加えておく。矢口史靖の映画だし。