スターリンの葬送狂騒曲

 

スターリンの葬送狂騒曲 [DVD]

スターリンの葬送狂騒曲 [DVD]

  • 出版社/メーカー: ギャガ
  • 発売日: 2019/02/02
  • メディア: DVD
 

 映画『スターリンの葬送狂騒曲』公式サイト

 以前から観たかった映画、ようやく観ることができた。

 スターリンの死とその後の側近たちの権力闘争を徹底的に戯画化したブラックジョーク満載の作品だ。スターリン死後については、ナンバー2で無能なマレンコフ、スターリンの大粛清を担ったNKVD(内務自民委員部)=秘密警察を統括する部署のトップで実質的にはマレンコフを凌駕する権力を持っていたベリヤ、その対抗馬のフルシチョフらの権力争い。その様がとんでもないくらいに馬鹿馬鹿しく戯画化されている。

 もちろんスターリンの死後、ソ連がどうなったのかは歴史的事象としては知っている。様々な混乱の後、フルシチョフが権力を握り、有名なスターリン批判を行い自由化を行った。そのフルシチョフも10年後に失脚する。それも映画のエピローグでも語られる。そう、その後長く政権の座につくことになるブレジネスにとって変わられることが暗示される。

 しかし、この映画のブラックジョークがあまり笑えないのはどうしてなのだろうか。ギャグセンスも露悪的で秀逸だし、社会主義国家の権力逃走がカルカチュアされている。でもどこか笑えないのである。

 それはこの映画でも強調され、何度も繰り返し出てくる、処刑シーンだ。ベリヤのつめているNKVDの本部では、頻繁に「スターリン万歳」の声と銃声が繰り返し響き渡る。粛清の状態化がわかりやすく表現されている。

 この映画で死は本当に軽く、無意味で繰り返される。スターリンの死によって、強制収容所で一人ずつ銃殺される処刑の場で、何人もが凶弾に倒れる。次の囚人の番というときに唐突に死刑は中止され、囚人には恩赦が告げられる。助かった囚人は虚無的に自分の前に殺された囚人の死骸に目を向ける。

 スターリン時代、ソ連国民の人の命は本当に軽い、軽視されていた。第二次世界大戦での死者は2000万人以上ともいわれている。そしてスターリンの大粛清の死者は1930年代に70万人、彼の死んだ1953年までにはその倍近い人々が犠牲になったという説もある。ほとんどジェノサイドに近い。

 社会主義国でのこうした粛清はソ連スターリンカンボジアポルポトが群を抜いている。中国でも社会主義国家の建国から文化大革命までの期間におそらく数十万から数百万の人々が犠牲になったという話もある。

 こうした非人道的な政治的弾圧。社会主義国家建設のための拙速な国家運営とその下での熾烈な権力闘争のために沢山の民主が犠牲になったということだ。

 そうした歴史的事実があるだけに、この映画のブラックジョークが乾いた笑いに成り得ていないということだ。多分、我々はアウシュビッツの題材にしたブラックジョークを好まないだろう。広島、長崎を乾いた笑いの対象にすることも多分。

 この映画は嫌いじゃない。でもどこかに違和感を覚えている自分がいる。それは大粛清の犠牲者たちのことをどこかで考えざるを得ないからかもしれない。