『スキャンダル』を観た

 ずっと気になっていた映画『スキャンダル』をようやくアマゾンプライムで観た。2019年の映画で公開時に話題になったもの。有名なFOXニュース社でのセクハラ事件を題材に、実在の著名ニュースキャスターをシャーリーズ・セロンニコール・キッドマンがそっくりなメイクアップで演じたことも話題になった。

映画『スキャンダル』公式サイト

スキャンダル (2019年の映画) - Wikipedia

 有名なセクハラ事件を題材に、実在の著名キャスターをハリウッドを代表するオスカー女優が演じるというだけですでに相当な話題性があるのに、さらにそのオスカー女優にそっくりさんのメイクをさせさらなる話題作りをする。そこまでするハリウッド的なあざとさみたいなものを感じる部分もなきにしもだけど、そのへんを置いといてもけっこう面白く観ることができた。

 ぶっちゃけシャーリーズ・セロンニコール・キッドマンの演技力、存在感があれば、別に実在のモデルにあえて似せる必要はなかったんじゃないのかと思ったりもする。しかしそれにしてもよく似せた。特にセロンが演じたメーガン・ケリーはクリソツという感じだ。

 ただしメーガン・ケリーは保守派のキャスターで人種差別的な発言もあるようなので、リベラルなシャーリーズ・セロンは演じることに微妙な部分もあったという話もあるようだ。

ケリーは、保守派のニュースチャンネル、FOXニュースの元キャスター。FOXニュース内でのセクハラを描く2019年の映画「スキャンダル」でシャーリーズ・セロンが演じた人物だ。セクハラに対して立ち上がった勇気は讃えるべきながら、ケリーは問題も多く、FOXの後に始めたNBCのテレビ番組でも人種に無神経な発言をし、番組を打ち切りにさせられたりした。黒人の養子ふたりを育てるセロンも、映画で彼女を演じることにはずいぶん迷いがあったと認めている。

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 シャーリーズ・セロンは役作りのために何十キロも太ったりと肉体改造も平気でこなすし、今回はメイクでソックリさんをしてみたりするけど、あの美貌と存在感があれば、もうそういうの必要ないんじゃないかと思ったりもする。でも多分、そういうのが好きな役者なのかもしれない。

 

 映画はアメリカでも1、2を争う視聴者数を誇るニュース専門チャンネルのFOX(FNC)で起きたセクハラ事件である。絶大な権力をもっていたCEOロジャー・エイルズが長年に渡って女性キャスターや社員にセクハラを行っていたことを、人気キャスターだったグレッチェン・カールソンが告発した事件をテーマにしている。カールソンと共に声をあげた他の女性社員、さらに看板キャスターであったメーガン・ケリーも自分もかって受けたセクハラを告発すべきかどうか葛藤する。

 最終的にカールソンはセクハラの具体的な証拠となる録音テープの存在を明示し、エイルズは失脚し、NFCは謝罪しカールソンに総額2000万ドルの和解金を支払うことで決着する。ただしこの和解には秘密保持契約がありカールソンが受けたセクハラの内容は現在まで明らかにされていない。

 

 この有名なセクハラ事件のポイントはFNCという保守的なメディアで起き、それが告発されたということにあるのかもしれない。前回のトランプ対バイデンの大統領選の報道でも明らかになったことだが、FNCは明確に共和党より保守中道路線の報道をおこなっているメディアであり、民主党よりでリベラルな位置にあるCNNの対局にある。そのためFNC内ではMeTooを声高に主張するのは禁忌される部分があった。

 映画の中でも男性上司や同僚に対して、女性社員が意見として女性の権利について言及すると、「君はフェミニストか」と聞き返され、「私はフェミニストではありません」と否定するシーンが何度か出てくる。保守界隈では、フェミニストとは女性の権利を声高に主張する過激派というレッテルが貼られているようだ。それは最近の日本のTwitter界隈でフェミニスト表現規制の過激派扱いされるのと似通っているのかもしれない。

 それは映画の中でこれは架空の人物設定なのだが、女性プロデューサーがレズビアンであることを同僚に告白した時に、この会社で自分がゲイであることがわかったらどうなるかみたいな話をしたことでも象徴される。NFCMeTooや、人種問題を明言してはいけない、そういう不文律があるのかもしれない。

 それは多分、アメリカ社会の縮図というか、アメリカの半分の問題でもある。共和党色が強い保守的な社会にあっては、MeTooも人種問題も大きく主張すれば、リベラル、あるいは過激派扱いされ、場合によってはパージされかねないということ。なのでMeTooもBLMも日本で瞬間的に大きく扱われたけれど、あれが全米すべての潮流ではないのではないかということは考えておいたほうがいいかもしれない。

 

 そういう問題はおいといても、社会的なテーマをもとに第一級のエンターテイメントに仕立て上げるのがハリウッドの底力だと思うし、この映画もテンポ良く一気にに観ることができる。ただしテーマの割に観終わったあとに諸々考えるというか、そういう余韻の残る映画ではないかもしれない。良くも悪くも社会問題をテーマにした娯楽映画ということだ。

 

 登場人物のほとんどは実在だが、主要な人物の中で架空の人物が二人いる。一人は野心的な若いキャスターを演じたマーゴット・ロビー。この人は『スーサイド・スクワッド』のハーレイ・クイン役や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でシャロンー・テートを演じた今旬な女優だが、美人なうえに演技力、存在感もある。まあこの映画では得する役柄だったことはあるが、それでもシャーリーズ・セロンニコール・キッドマンに負けない存在感を示していたと思う。出演作に恵まれれば近い時期にオスカー取れるかもしれない。

 あと前述したレズビアンのプロデューサー役のケイト・マッキノン。この人は『サタディー・ナイト・ライブ』で売り出したコメディエンヌ、『ゴーストバスターズ』でちょっとマッドな女性科学者演じた人でした。なんかしっかりシリアス演技する女優さんになっていてビックリした。

 

 『スキャンダル』はオスカー女優、シャーリーズ・セロン、ニーコル・キッドマンが実在人物をソックリメイクで演じた話題映画とかMeToo時流に乗った社会派映画とか、多分そういう括りになってしまうのだろうけど、とりあえず108分と割と短めの社会派エンターテイメントとして観るのが一番だと思う。そういう点ではダレることなく面白くみれた。特にシャーリーズ・セロン好きな自分はけっこう満足できた映画でした。