ポーラ美術館「シン・ジャパニーズ・ペインティング」 (8月19日)

 箱根小旅行の最終日は真打、ポーラ美術館へ。

 今回開催されていたのは13年ぶりという日本画の企画展。

 「シン・ジャパニーズ・ペインティング-横山大観、杉山寧から現代の作家まで 革新の日本画」。長いねタイトルが。

 ポーラ美術館というと印象派など西洋絵画、しかも近代絵画のイメージが強いけど、けっこう日本画も多く持っている。多分、最初に行き始めた頃だったか、B2Fの一室は日本の洋画、黒田清輝高橋由一、岡田三郎助、岡鹿之助などと一緒に東山魁夷、杉山寧、平山郁夫なんかを観たような記憶があったのだが、最近はとんとご無沙汰みたいな感じだった。そして今回は満を持してみたいな感じなんだろうか。

 オープニングにあるとおり、「日本画」とは明治初期に来日したお雇い外国人アーネスト・フェノロサが日本国内で目にした絵画を総じて「Japanese Painting」と呼び、これを日本人通訳が「日本画」と訳したことから定着したという。

 より詳しくは1882年にフェノロサ龍池会で行った講演「美術真説」で使った言葉、 Japanese paintingが「日本画」と翻訳されたということらしい。その翻訳したのは誰だったのだろう。調べても出てこないけど、たぶん岡倉天心じゃないんだろうね。

 そのときの講演でフェノロサは「日本画」を特徴を以下のように説明したのだとか。

  1. 写真のような写実を追わない
  2. 陰影が無い
  3. 鉤勒(こうろく)=輪郭線がある
  4. 色調が濃厚でない
  5. 表現が簡潔である

 そしてフェノロサは、絵画とは「妙想(みょうそう)」と呼ばれる作家の理想が表現されたものであり、写実にとらわれず自由かつ簡易に妙想を表すのに日本画の特徴は優れていると述べた。そのうえで当時大衆的に人気のあった浮世絵と南画(文人画)を日本画には不必要なものとして除いてしまったのだとか。

 このへんから日本画のいびつな世界観が生まれてきたのかもしれないし、フェノロサの影響下で岡倉天心らの頭でっかちな美学が形成されていったのかもしれない。さらに当時急速に普及し始めた洋画、西洋画をも排斥した。当初、東京美術学校に洋画科がなかったとかなんとか。

 その後、岡倉天心とその影響下にあった画家たちが、天心が美術学校から排斥されたことにより、美術院結成などという流れがあるのだろう。日本画の中にも新派(日本美術院派)と旧派があるとかなんとか。多分、多分だけど、人気があり、売れる絵は浮世絵や南画だったのではないかと。

 そういう流れの中でいうと、日本画=新派みたいな偏った流れもあるかもしれないし、そこから黙殺された旧派みたいな部分もあるかもしれない。まあ日本画史観=美術院史観みたいなところもあるもかもしれないなどと。

 

 今回のポーラの企画も明らかに横山大観菱田春草らの日本美術院派の流れに沿った流れで展開されている。まあそれが現在のところでは、一般的な日本画の流れのメインストリームなので致し方ないということかもしれない。

 

シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画―横山大観、杉山寧から現代の作家まで | 展覧会 | ポーラ美術館 (閲覧:2023年8月23日)

みどころ

  1. 13年ぶりの日本画展。日本画の誕生から現代までの展開をダイナミックに紹介
  2. テーマは「革新」。日本画の表現手法や材料、形式の変化から歴史を紐解く
  3. 日本画と洋画はどう違う? 同時代の洋画家たちの作品と比較する
  4. 現代の作家たちの新作も初公開。日本の絵画の現在地を探る

展覧会構成

プロローグ:日本画の誕生

おもな出品作家:橋本雅邦、川端玉章狩野芳崖高橋由一、 浅井忠、小山正太郎

第1章:明治・大正期の日本画

おもな出品作家:横山大観菱田春草、下村観山、浅井忠、川村清雄、田村宗立

第2章:日本画の革新

おもな出品作家:横山大観菱田春草、菊池契月、小杉放菴(未醒)、冨田渓仙、岡田三郎助、岸田劉生藤田嗣治(レオナール・フジタ)

第3章:戦後日本画のマティエール

おもな出品作家:松岡映丘、山本丘人、髙山辰雄、東山魁夷、杉山寧、加山又造今井俊満堂本尚郎

第4章:日本の絵画の未来 -日本画を超えて

おもな出品作家:山本太郎、谷保玲奈、久松知子、春原直人、三瀬夏之介、荒井経、マコトフジムラ、野口哲哉、深堀隆介、山本基、天野喜孝李禹煥、蔡國強、杉本博司

 

 なかなかボリューミーかつ中身の濃い企画展だと思う。箱根観光の流れでちょっとキレイな絵もみたい的な気分で来ていいのだろうかと思えるくらいに濃い。これは図録購入は必須だな、でもこの中身だとけっこうお高いだろうかなどと思いつつ、まずショップで図録の中身を確認しようかと思ったのだが、図録はありませんとな。なんでも出来上がりは10月下旬で、予約受付中だという。はてさて図録はここでしか買えないのかどうか、ひょっとして市販されるのかどうか。念のためにショップのお姉さんに聞いてみる。

「図録は市販されるのですか」

「え~と、求龍堂から発売予定」

「あって、求龍堂さんですか」

 ちょっと上から風でフレンドリーな店員さんでした。美術館によくいらっしゃる意識高い系の店員さん風でした(どんなだ)。

 さらに入り口に当然あるだろうと思っていたのだが出品リストもない。リストと作家解説は特設サイトからPDFファイルを閲覧もしくはダウンロードするみたい。このへんは経費削減でしょうか。

<出品リスト>

https://www.polamuseum.or.jp/wp-content/uploads/2023/07/20230714231942.pdf

<作家解説>

https://www.polamuseum.or.jp/wp-content/uploads/2023/07/20230714130917.pdf

(閲覧:8月23日)

 そんでもってよく見ると展示期間もかなりまちまち。前期展示、後期展示とかそういうことではないみたい。まあこれは日本画の場合、展示期間が細かく限られているので(文化財法の関係)、致し方ないのかもしれない。しかし箱根でこれだけ細かい展示となると、本当に絵を観るということは一期一会だなと改めて思ったりもする。

 

展示期間     点数
7/15  -   8/15               1
7/15  -   9/1           13
7/15  -   9/22           17
7/15 -   10/20             3
7/15  -  12/3        53
8/16  -   9/15            1
9/2    -  10/20          10
9/2    - 12/3            1
9/23  - 12/3          18
10/21 -11/3            2
10/21 -11/19            1
10/21 -12/3          10
         130

 

<気になった作品を幾つか>

《山に因む十題のうち 霊峰四趣 秋》 横山大観 1940年 紙本彩色 ポーラ美術館

 

《春野》 菱田春草 1901年 絹本彩色 京都国立近代美術館

 

躑躅》 菱田春草 1906年 絹本彩色 遠山記念館

 

 《パリ婦人散歩図》 浅井忠 1903年 紙本墨画 京都国立近代美術館

 

《越前紙漉》 冨田溪仙 1927年 絹本彩色 福井県立美術館

 

《あやめの衣》 岡田三郎助 1927年 油彩/厚紙 ポーラ美術館

 

《婦人半身像》 岡田三郎助 1936年 油彩/その他/紙 ポーラ美術館 

 

伊香保の沼》 松岡映丘 1925年 絹本彩色 東京藝術大学

 

《公園の初夏》 山本 丘人 1929年 絹本彩色 東京藝術大学

 

《水》 杉山寧

 

《洸》 杉山寧

 

《方舟2》 深堀隆介 2015年 個人蔵

 

《緋ノ魚》 深堀隆介 2020年 アクリル、墨/紙 作家蔵

 

《たゆたう庭》 山本基 2023年 塩 作家蔵