ポーラ美術館「部屋のみる夢」 (3月30日)

部屋のみる夢 ボナールからティルマンス、現代の作家まで | 展覧会 | ポーラ美術館

 

企画概要

「部屋のみる夢 ボナールからティルマンス、現代の作家まで」~企画概要

パンデミック以降、私たちの生活様式は大きく変化しました。移動が制限された状況で誰もが多くの時間を過ごしたのが、「部屋」という空間です。安心をもたらす室内での生活は、外の世界からの隔絶がゆえに閉塞感と隣り合わせのものでした。他方、閉じられた空間で紡がれた親しい人たちやかけがえのないものとの関係は、日常を生き抜くためだけではなく、変化の乏しい生活に彩りを添えるのに、欠かせないものであったと言えるでしょう。

本展覧会では、19世紀から現代に至るまでの、部屋にまつわる表現に特徴のある作家を取り上げ、この小さな世界のなかで織りなされる親密な記憶や夢想のありようを、あらためて見つめ直します。個性にあふれた作家たちによる多彩な室内の表現は、ステイホームの経験を通じて静かに変容した私たちの心のなかで、新たな像を結び始めるでしょう。

(チラシより)

 コロナ禍におけるステイホーム、家に居続けることを余儀なくされた生活、そこからの日常の変容、そうした点を問題意識化したうえで、部屋的空間を題材にした作品を多く描いた作家をとりあげた企画展だ。取り上げた作家は、ポーラ美術館のコレクションをメインにベルト・モリゾ、ヴィルヘルム・ハマスホイ、ピエール・ボナールエドゥアール・ヴュイヤール、アンリ・マティス。これに現代作家として草間彌生ヴォルフガング・ティルマンス、高田安規子・政子、佐藤翠+守山友一朗など。

 室内を主題にしたという点で親密派=アンティミスムのボナール、ヴュイヤールの作品が多数展示されている。ベルト・モリゾはときに絵日記のようにして、家族=娘との生活を描いたことから取り上げたものだろう。さらにマティスは装飾的な意匠をともなった室内空間を主題にした作品を多数描いている。とくにボナール、モリゾ、マティスは、ポーラのコレクションの中でも点数も多く、それがこの企画を後押ししたのだろうか。

ピエール・ボナール

 ときに凡庸とピカソに揶揄された色彩感あふれる表現、そのうえで家族の日常など身近な題材を取り上げた。特に一日に何度も入浴するのが習慣だった妻マルトの入浴する姿を描い作品を多数描いている。それは親密派というよりはどこか覗き見的であり、まさに「部屋のみる夢(淫夢)」的である。

 今回の企画展では、ポーラ美術館所蔵品7点、他館4点の11点が展示されている。その中でマルト入浴姿態3点を。

《浴槽、ブルーのハーモニー》 1917年頃 ポーラ美術館

《浴室の裸婦》 1907年 新潟市美術館

《かがみこむ裸婦》 1938-1940年 ポーラ美術館

エドゥアール・ヴュイヤール

 ボナールと同じナビ派かつ親密派を形成したヴュイヤール。独身で母親と同居し、主に母親の姿を描く小品が多いという印象だったが、一方でフォーヴィズム的色彩鮮やかな自画像、また自身のアトリエなどを立体感溢れる大画面で描いた作品などもある。

 今回は展示点数4点だが大型のものも多く見応えがある。改めて出品リストをみるとビュイヤールは支持体としてキャンバスよりも紙、厚紙を使っている。また何かで読んだのだがデトランプ(泥絵具)も使った手法も多用している。紙にデトランプを用いると絵具が紙に染み込みやすいため、彼の独特のしずんだ黄土色めいた色調、光沢のない雰囲気が生まれるようだ。

《画家のアトリエ》 1915年 パステル/紙 ポーラ美術館

 モデルにスポットをあてるとこんな感じである。

 

《窓辺の女》 1898年 油彩/厚紙 愛知県美術館

 次の二点は平面的な作品が多いヴュイヤールの中では奥行、立体感を強く感じさせる。以前、ひろしま美術館コレクション展として栃木県立美術館で観た《アトリエの裸婦立像》と同系統の作品。

《服を脱ぐモデル、マルゼルブ大通り》 1909年頃 
ディステンパー/紙(カンヴァスに貼付) ポーラ美術館

 そして次の作品は、ちょっとヴュイヤールにしては色彩感覚が華やかな感じがする大画面の作品。

《書斎にて》 1927-1928年 油彩/カンヴァス ヤマザキマザック美術館

 この大画面の作品は、ヴュイヤールにしては色調が鮮やか。ボナールやドニのような趣もある。今回の企画展でも一番気に入った作品。ヤマザキマザック美術館は名古屋の中心地にある美術館でフランス近代の作品を多くコレクションしているようだ。愛知県美術館からツーブロックくらいの至近にある。いつかこの二つの美術館をハシゴしてみたいものだと思ったり。

アンリ・マティス

 マティス作品は6点が展示、すべてポーラ美術館所蔵品だ。ボナール11点、マティス6点ということで、この企画展「ボナールとマティス そして現代の作家まで 部屋の見る夢」というタイトルでもいいかもしれない。展示作品はすべてのお馴染みのものばかり。まあ年に1~2回頻度で行っているので、なんとなくそういうことになる。もっとも最初に観たきりで、それ以降一度もお目にかかれない作品なんていうのもあるし、噂には聞いているのに一度も観ていない作品も多数ある。まあそういうものだ。

 マティスの部屋はこんな感じで、ピンクの壁面にマティス作品はよく似合う。

 しいて一点をというと冒頭に展示してあったこれか。

《窓辺の婦人》 1935年 パステル/厚紙 ポーラ美術館

 モデルはおそらく秘書でもあったリディア。室内の観葉植物とカーテンの端の赤の補色関係。窓、テーブルの斜めの描きから平面的なマティスにしては珍しく奥行を感じさせる。窓の向こうにベランダ越しに小さく海が。ベランダの水色の線はフェンスによる影? よく観るとモデル左腕には濃い茶色の影のような何か。多分描き直しによるものだろうか。

 

高田安規子・政子

 一卵性双生児姉妹のユニットによるインスタレーション。独特の静謐感がある不思議な空間。

《Open/closed》 2023年 12分の1スケールのドア 鍵と鍵穴プレート

《Inside-out/Outside-in》 2023年 12分の1スケールの窓(180個)

 窓の向こうは大きなリアルのガラス窓で、その向こうにはポーラ美術館の囲む森の風景が広がっている。

草間彌生

《ベッド・水玉脅迫》 2002年 ミクストメディア ポーラ美術館

 例によって水玉であり、例によってあの男根的突起物である。明るい赤の水玉の男根的突起とのギャップ。何も知らなければ可愛いベッドとなるのだろうけど。草間の深層的にはこれが脅迫観念として迫ってくるのだろうか。このベッドに眠る女性。そして水玉突起がじょじょに蠢き出して・・・・・・。うわぁー、である。