ジャイアンツ

  以前BS放映を録画してあったもの。

 1956年公開という古い映画だ。もちろん何度も観ているが多分今世紀に入ってからは初めてになるだろうか。エリザベス・テイラーロック・ハドソンジェイムズ・ディーンという三大スターの共演だ。

ジャイアンツ (映画) - Wikipedia (閲覧:2023年3月22日)

 ジェイムズ・ディーンは公開前の1955年に事故死しているので、この映画が彼の遺作である。孤独で影のある彼のキャラクターそのままの男ジェット・リンクを熱演していた。彼はこの映画製作時は24歳、売り出し中の青春スターだった。

 主演三人の中でのメインというか、クレジットでも最初にくるのはエリザベス・テイラージェイムズ・ディーンより一つ下の当時23歳。10代からキャリアを積み重ねてきた当時もっとも人気のあった美人女優だったか。彼女はこの映画の中でも群を抜く美しさで圧倒的な存在感がある。

 三人の中でなんとなく影が薄いというか、二枚目だが大根というか演技の面ではやや劣ると思われていたロック・ハドソンは当時30歳。長身でマッチョな二枚目俳優だったが実はゲイ。たしか59歳でエイズで亡くなっている。

 映画はテキサスの大牧場の御曹司ジョーダン・ベネディクト(ロック・ハドソン)が東部の上流階級から花嫁を連れてくるところから始まる。花嫁のレズリーがエリザベス・テイラーだ。そこから二人が老境に達するまでの様々な出来事、石油が採掘され牧場経営から石油成金となっていく様や、家族の問題、メキシコ系への人種差別などが絡みある叙事詩的映画でもある。

 大牧場の使用人だったジェット・リンク(ジェイムズ・ディーン)は、不慮の事故で死んだベネディクトの姉の遺言でわずかばかりの土地をもらう。そこで石油採掘に成功して、ベネディクトよりも裕福な大富豪となる。

 ジェット・リンクは実は人妻レズリーに密かに恋心を抱いている。富豪となった彼はレズリーへの恋心から、ベネディクトとレズリーの娘ラズ(キャロル・ベイカー)に接近する。ラズは立身出世を果たした大富豪ジェットに興味を抱き次第に恋するようになる。年の離れたジェットとラズは婚約を発表する間際、ジェットが実は母親をずっと愛していることを知り離れて行く。

 映画の後半ではエリザベス・テイラーロック・ハドソンジェイムズ・ディーンの三人が老け役に挑戦している。その中ではジェイムズ・ディーンがどこか滑稽なピエロのような感じである。ナイーブな青春スターのディーンにはちょっと難しい役だったかもしれない。

 ラズを演じたキャロル・ベイカーは1931年生まれで、映画の中で母親役のエリザベス・テイラーよりも一歳年長、歳の離れたカップルという設定のジェイムズ・ディーンとは同い年だったりと、微妙な部分もある。まあそれもハリウッドの映画システムみたいなものだ。また60年代後半にニューシネマで異彩を放つデニス・ホッパーも出演しいる。

 この映画は出演者とは別に西部テキサスのスケールの大きさが主題となっている。同じようにテキサスの広大な牧場を描いた映画に『大いなる西部』があった。あちらは花嫁ではなく花婿が東部からやってくるという『ジャイアンツ』とは逆転の設定だった。出演はグレゴリー・ペックジーン・シモンズなんだが、なんとなく記憶的には『大いなる西部』の方が先に公開されているような印象があった。調べると『大いなる西部』は1958年の公開と2年後のようだ。

 監督は『ジャイアンツ』がジョージ・スティーブンスで『大いなる西部』がウィリアム・ワイラー。いずれもハリウッドの巨匠的監督だ。制作は『ジャイアンツ』がワーナーで、『大いなる西部』はユナイテッド・アーティスト。比較的同時期に同じような映画ということになるが、おそらく『ジャイアンツ』の大ヒットがあって制作に踏み切ったのかもしれない。

 1950年代半ばというとハリウッド映画はまだ全盛期の時代だった。1949年からテレビが急速に普及してきたため、ハリウッド映画はテレビに対抗すべく大画面のシネマスコープによる大作映画を量産した。多分、『ジャイアンツ』もそうした流れの中で制作されたのだろう。そして50年代後半から60年代になるとハリウッド映画は低迷下する。もはや大作映画が飽きられ思ったような興収が得られない状況となる。そこから60年代後半、独立プロによる低予算のニューシネマが生まれてくる。

 そういう時代背景を思うと『ジャイアンツ』は、豪華賢覧なハリウッド映画の最後の輝きをみせた作品の一つなのかもしれない。美男、美女が大画面に登場し、広大なテキサスを舞台にした古き良き西部劇である。しかし新時代の到来はテキサスを大牧場から油田地帯へと変える。そしてそれまでのハリウッド映画では隠されていた人種問題も可視化される。古き良き西部劇の時代から新時代への変化。それらを盛りだくさんに詰め込んだのがこの作品だ。

 66年も前の古い映画である。出演者もほとんどが物故者となっている。ラズ役のキャロル・ベイカーは91歳で存命とのことだ。