『若草物語』

若草物語 [DVD]
若草物語 - Wikipedia
続けて観たのがこれだ。MGMの全盛期に当時の大スターだったジューン・アリソンを主演に、名子役として人気を博していたマーガレット・オブライエン、売出し中のエリザベス・テイラー、それにジャネット・リーを配した作った映画だ。なんでもMGMスタジオ設立25周年記念として企画されたという。
おそらく何度か観ているだろう映画なのだがあまり記憶にない。多分少年時代のどこかでテレビで放送されたものを観ているはずなのだが。1949年製作、私が生まれるだいぶ前のことである。さすがに21世紀になってこれを観るとと古色蒼然とでもいうべきか、なんともゆったりとしたテンポの映画ではある。
しかし出てくる女優さんはみんな美人だし、相手役の男性陣もハンサム揃い。このへんを若きピーター・ローフォードやロッサノ・ブラッティが演じている。あの『旅情』でキャサリン・ヘップバーンを虜にするイタリアの骨董品屋の店主、ロマンス・グレーの二枚目のおっさんを演じていたロッサノ・ブラッティである。彼ははっきりミス・キャストだな。ドイツ人の教師役なんだが、まったくドイツ人に見えない。そりゃそうだよ、どこからみてもイタリアンなんだから。
演出はあのマーヴィン・ルロイである。どこがあのなのか、『哀愁』『心の旅路』『キューリィ夫人』などなど、メロドラマの巨匠でもある。もうこの人の撮った映画は安心して観ていられると思えるような職人気質の監督さんだ。他にも『ミスター・ロバーツ』をジョン・フォードと共同演出してもいる。
若草物語』もだれることな観ることができた。心躍るというわけでもないが、のんびりと楽しく観れた。娘もきちんと観ていた。元々幾千万の少女たちの圧倒的な支持を受けてきた小説が原作である。娘の心にもすんなり届いているのだろう、このお話のエッセンスが。
時代および舞台は南北戦争当時のアメリカ北部だ。ほぼ『風と共に去りぬ』と同時代のことだ。戦争中とはいえ、ずいぶんとのんびりした雰囲気だ。北部の地方都市でいちおう戦時下での窮乏生活なのだが、どうにも穏やかな雰囲気である。まあ北軍にとっては勝ち戦だし、戦場から離れた遠い地方都市ではこんなものだったのかもしれないなと思う。
そしてなによりもピューリタンのモラル溢れる日々の生活。それがなんか清清しくて心地よい。裕福じゃないけど、きちんと躾が身についた四姉妹。こういうのがね、なんだかよく判らないのだけれど古き良き時代への郷愁みたいな感じで心に染みてくるのだ。
女優さんたちはみんな美しいけど、ジューン・アリソンがなんでこんなに人気があったのかは、ちょっと不思議な感じがする。なんとなくどこにでもいそうな可愛い活発な女の子的である。MGMでは学園モノ系ミュージカルで、おきゃんな女子大生役を演じるパターンが多かったかな。相手役はたいていピーター・ローフォードか。
その後は伝記映画とかで可愛い奥さん役もよくやっていたか。『蘇る熱球』とかご存知『グレン・ミラー物語』とか。たぶんこの時代のアメリカでは、「恋人にしたい女優」とか「奥さんにしたい女優」とかでいつも上位にいるような人だったんだろうな。所謂大衆的な人気、近寄りがたい美しさとかではなく、身近にいそうなタイプの女優さんみたいなタイプだろうか。
そして三女役を演じたエリザベス・テイラー。いつもの黒髪がなぜかこの映画ではブロンドになっている。でもとにかくその美しさは他を圧倒するものがあるな。ただし上昇志向が強くくて、鼻が低いことにコンプレックスを抱いているため、寝るときには鼻にせんたくばさみのようなものをつけているという役を、リズが演じるのはちょっと無理があるようにも思う。彼女は他の姉妹役の女優よりもひときわ鼻が高くて、完璧な美人だから。彼女がせんたくばさみを鼻につけること自体がご愛嬌と、そういう風に楽しむべき映画なんだろう。
この映画はある意味、昔的表現でいえば文部省推薦映画そのままである。娘と一緒に観ていても本当に安心できる。美しい適齢期の四姉妹がでてくるけれど、セックスのような生々しい話は一切ない。末娘が病弱で死んでしまうということはあるにはあるけど、それこそ人が殺されない、男と女が寝ない、そういうタイプのお話である。様々な暴力、セックス、その他もろもろが蔓延している現代にあっては、こういう世界は一服の清涼剤モノである。そして私はそういうのが意外と嫌いじゃないんだな。