和田誠が死んだ。
ツィッターのタイムラインに流れてきて知った。
83歳という高齢であることからすれば、いつかやってくる訃報だったとは思う。とはいえ本当に残念としか言いようがない。彼の映画の含蓄、博識さは底知れぬものがあった。
自分を映画好きにさせたのは、まちがいなく彼のエッセイや対談集を読んでのことだったと思う。キネマ旬報に連載され、のちに文春から単行本になった『お楽しみはこれからだ』を何度読み返したものか。彼の映画的記憶とユーモラスなハリウッド映画人たちの似顔絵、イラスト。
自分がハリウッド映画に開眼したのは、和田誠の映画的記憶を追体験していく過程だったと思う。そう、彼のエッセイによって語られる名画の数々を追うようにして名画座巡礼を続けた。彼が愛したMGMミュージカルを、ヒチコック映画を、ジョン・フォード西部劇を夢中で追いかけた。
和田誠が一番好きだと公言し、その映画のことなら何時間でも語り続けられると言った『ジョルスン物語』も確か飯田橋の名画座で観た。そのときはやっと和田誠のベストワン作品を観ることができたことへの感動が一番にあった。初めて観るのに、もう何度も観ているかのような体験、それは和田誠の語る『ジョルスン物語』の映画的記憶を何度も追体験していたからことだと思う。
そして同様に繰り返し、繰り返し読んだのが和田誠と山田宏の対談集『たかが映画じゃないか』だ。本当にこの対談集に導かれるようにして様々な映画を観た。トリフォー、ハワード・ホークス、ヒチコック、スピルバーグなどなど。彼らの牽強付会ともいうべき映画的博識さと驚異的な映画的記憶。
今、自分の本棚から試みに彼の本を抜き出してみる。
本当に繰り返し、繰り返し読んだ本ばかりだ。その中央に置いた話の特集から出ていた『倫敦巴里』もまた愛すべき作品だ。もともと和田誠を知ったのは雑誌『話の特集』からであった。その『話の特集』のために描いた様々な戯作、贋作の作品群を一堂に集めたのがこの本である。
彼の才能と批評精神がいかんなく発揮された楽しい、楽しい作品ばかりである。
そしてこの本はよく見ると、なんとサイン本であった。このサインをいつ書いてもらったのか、あまり記憶がない。昭和の、70年代のどこかだとは思うのだが。
ご冥福をお祈りいたします。