ウエスト・サイド・ストーリー

 ずっと観たいと思っていたが、ようやくディズニー+で観た。

ウエスト・サイド・ストーリー | Disney+

 レビューなども高評価であり、観た知人、友人たちもだいたいが「面白かった」と口を揃えていう。なのでいつかは観ないととは思っていた。でも、少し前までは劇場公開が終わっても半年とか1年とかすれば必ずDVDが発売され、TSUTAYAでもレンタルできる。でも今ではDVDやブルーレイの販売はあるが、たいていは有料配信サイトによるサブスクになっている。こうした目玉的作品はというと、有料配信されない。

 「ウェスト・サイド・ストーリー」もディズニーが配給に関わっており、ディズニー+でのみ配信されている。自分のところはここ数年、AmazonプライムNetflixの有料会員だが、さらに会員になるのもなあ~という思いでいた。年金生活者にはけっこうこういうのも負担ではある。とはいえビートルズの「Get Back」がどうしても観たくて、暮れに会員になっちゃったけれど。

 しかし「Get Back」は、延々痴話げんかが続くし、ポールは才能あるけど独善的だし、ジョンはいい加減過ぎるし、ジョージはナイーブだし、リンゴはいい奴過ぎるしと、とにかく長すぎた。あれは同世代的に聴いてきたビートルズ・ファン以外にはちょっとシンドイドキュメンタリーかもしれないな。

 ということで「ウエスト・サイド・ストーリー」である。その感想は率直にいえば微妙である。やはり前作が偉大過ぎた。というか前作は、お気楽ミュージカルに初めて社会的なテーマを含めたという画期的な部分、大規模なニューヨークでの屋外ロケ、そしてあの横長巨大なシネマスコープ。なにからなにまでが斬新だった。といってもジェローム・ロビンス振付のダンスナンバー、レナード・バーンスタインの音楽は素晴らしいけれど、劇映画としてはどうか、ストーリー展開はというと、いささか陳腐だったかもしれない。それをあの大画面、音楽、躍動的なダンスという力業で押し切ったのだと、そんな風に思っている。

 すべてにわたって個人の思い込み的感想でしかないけれど、いっちゃなんだが、同じロバート・ワイズ作品のミュージカルでは「サウンド・オブ・ミュージック」の方が遥かに出来が良いとは思う。やっぱり主役の差だろうか。ある部分ジュリー・アンドリュースは一人で映画をもたせるけれど、「ウエスト・サイド物語*1は主役の一人、二人でもたせるのではなく、あくまで集団劇で展開している。

 とはいえ「ウエスト・サイド物語」では、マリア役のナタリー・ウッドが唯一の一枚看板の大スターだ。歌も吹き替え、ダンス・シーンもほとんどない彼女を主役に持ってきたのは多分、興行上客を呼べるスターを使うっていうことだったのだろう。リチャード・ベイマー、ラス・タンブリン、ジョージ・チャキリス、リタ・モレノでは弱すぎる。もっともナタリー・ウッドはこの映画に出るにあたって、自ら歌う気満々だったようだし、実際に歌っていてのが吹き替えられたことでお怒りになったらしいけれど。

 60年代の大作ミュージカルでは、ヒロインを歌わない(歌えない)大スターに演じさせ、専門歌手が吹き替えはよく行われていた。「マイ・フェア・レディ」のオードリー・ヘップバーン、「王様と私」のデボラ・カー、そして「ウエスト・サイド物語」のナタリー・ウッド。いずれも吹き替えで歌っているのはマーニー・ニクソンである。

マーニ・ニクソン - Wikipedia (閲覧:2023年2月9日)

 話がほとんど1961年の旧作の方にいってしまったが、2021年のスピルバーグ版のである。いい映画だし、原作(ブロードウェイ・ミュージカル)により忠実らしい。「ロミオとジュリエット」を現代に翻案し、人種差別や貧困という社会的テーマを盛り込んだ作品としていえば、及第点以上とは思う。スピルバーグの演出もそつないし、若い役者さんたちもよく演じている。でもね、どうしても前作と比べてしまうのだよ。するとどうしても物足りなさが出てくる。

 主役のトニー役はアンセル・エルゴートも悪くない。もともとトニー役は前作のリチャード・ベイマーもそうだったけど、共演者に比べると役回りはでくの坊的。ナイスガイだけど、踊りがうまいわけでもない。当然、歌も吹き替え。まあヒロインのスターの相手役的存在だ(刺身のつまとは言わないが)。それを考えると今回もけっこう無難にこなしているように思う。まあヒロイン役が新人なのだから。

 この若い長身の俳優、どこか見覚えあるなと思っていたら、ジョン・グリーンの「さよならを待つふたり」を映画化した「きっと、星のせいじゃない」で若くしてガンに侵された男の子役を演じていた彼だった。あの小説も映画もアメリカでは評判だったらしいけど、日本ではさっぱりだったみたい。

 そしてマリア役のレイチェル・ゼグラー、小柄だけど多分歌も上手い。なかなか魅力的だ。でも、やっぱり華がないというか、なんかこのニューフェイスの娘を見ると、ナタリー・ウッドって偉大だったんだなと思ったりもした。子役からアイドル女優となりそのまま人気女優のポジションを確保したナタリー・ウッドは単なるエリザベス・テイラーの小物的コピーじゃなかったんだなと。

 今回、この「ストーリー」の後に旧作「物語」も観返したけれど、やっぱりナタリー・ウッドの存在感は抜群だ。明らかに主演女優として演じているし、そういう風に撮られている。監督ロバート・ワイズもきちんと主演女優を際立たせる演出、カメラワークしていると思う。そういう点でいうと、レイチェル・ゼグラーにはこの役は荷が重すぎたかもしれない。

 さらにいうとスティーブン・スピルバーグは確かに自分たちの世代の名監督、名匠である。様々な話題作、大作をものにしてきている。おそらく現代のハリウッドの名監督という点ではスピルバーグとスコセッシが双璧ということになるのではないか。とはいえ、この人は観客の度肝を抜くような演出、ストーリー展開、ある意味スペクタクルの巨匠でもある。逆に小品的な作品だとどこか凡庸な感じもしないでもない。

 そしてなによりも演出力の人ではあるが、役者を際立たせるような作品あまりなにようにも思ってしまう。男優を際立たせるとか女優をとにかく美しく見せるとか、そういう役者の良さを最大限に引き立てるような演出はあまり上手じゃない、あるいはやらない人という感じがしないでもない。

 このへんは出自というか、大学で映画を勉強して独立プロで映画作りをはじめてテレビドラマから入った人という部分もあるのかもしれない。ハリウッドのスターシステムでの映画作りとかとどこか無縁の人みたいな。

 なので実をいうと今回の映画でも、役者さんたちはあまり魅力的ではない。主役の二人はともかくとして、ドラマやダンスナンバーを際立たせる助演陣が今一つ輝いていない。リフ役のマイク・ファイスト、ベルナルド役デヴィッド・アルバレスも全然華がない。唯一アニタ役のアリアナ・デボーズがリタ・モレノのそれを踏襲している。まあ助演陣の中では一番キャリアがあるようだけど。

 観ていて微妙さを感じた要因の一番はこのへん、助演陣の力不足というか際立たせkたが今一つというところかもしれない。もともと群像劇、群舞の魅力によって成立しているのに、そこが弱すぎるというところが。ようは躍動感あるラス・タンブリン、どこまでもかっこいいジョージ・チャキリス、この二人がいない、この二人に代わるべき役者がいない、そこがすべてなのかもしれない。

 そして極論的にいってしまえば、スピルバーグは大好きな監督だけど、巨大トラック、鮫、巨大UFO、恐竜、戦争スペクタクルのリアリズムは描くことができるけれど、人をきちんと描くことには長けていない。そういう人じゃないかと。いや自分はかなりスピルバーグが好きな監督ではあるのだけど。

 ということで、今回の「ウエスト・サイド・ストーリー」を観終わって、すぐにDVDのライブラリーから旧作「ウエスト・サイド物語」を引っ張り出して、結局新旧二本立てみたいにして観てしまった。まあこうやって新作をディスって旧作持ち上げているのは、どこか老人の遠吠え的な感もないではないとは思うけど。

 もう一度「ウエスト・サイド・ストーリー」を観るかとなると、これも微妙である。まあ長生きしたらもう一、二回くらいは観るとは思う。でもって「ウエスト・サイド物語」はというと、多分これまでにも劇場、DVDと何十回と観ているけど、きっとこれからも何度も観ることになるのではないかとそう思ったりもする。

 新作「ストーリー」を良いと言っていた友人にそんな話をすると、そこまで酷くないということと、旧作への思い入れみたいな部分を指摘された。でもって、とりあえずお互い確認したのは、結局のところこのリメイクはスピルバーグは撮りたかったということに尽きるということなんだろう。どこかの記事で読んだがスピルバーグもそんなことを言っていたみたい。

「ずっとミュージカルを作りたいと思っていた。挑むべき作品を探しつづけてきました」と、幼少期からの夢を叶えた念願の企画であることを明かす。

スティーヴン・スピルバーグが明かす、『ウエスト・サイド・ストーリー』を現代に蘇らせた意義|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS

(閲覧:2023年2月9日)

 長いキャリアの中で初のミュージカルか。そしてきっと若い時に胸ときめかした旧作をリメイクしたかったのだろう。でもね、どうせならもっと違う映画にアプローチしても良かったのじゃないかと思ったりもする。まだ「サウンド・オブ・ミュージックj」の方がアルプスでの屋外ロケやナチスの迫害とかが題材となるので、スピルバーグ的ではないかと思ったりもする。なんといっても「シンドラー」や「ミュンヘン」撮ってる人なのだから。

 さらにいえば、いっそのこと自作のミュージカル・リメイクなんかも面白かったのではないかとそんな気もしないでもない。そう、「未知との遭遇」とか「ジュラシック・パーク」とか・・・・・・。

 個人的には「ウエスト・サイド・ストーリー」として現代版を作るとしたら、多分40年くらい前だったのではないかと思ったりもする。同じ移民でも白人系とストレートに黒人。そして、マイケル・ジャクソンにベルナルド役をやらせたかった。彼だったら、ジョージ・チャキリスを超える異次元のカッコ良さでダンスナンバーを引きたてたに違いない。

 こうやって諸々妄想できるのも映画の愉しみ、映画を観終わった後の楽しみの一つでもある。

 

2021年版

ウエスト・サイド・ストーリー (映画) - Wikipedia (閲覧:2023年2月9日)


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1961年版

ウエスト・サイド物語 (映画) - Wikipedia (悦雁:2023年2月9日)


www.youtube.com

*1:便宜的に旧作は「物語」、新作は「・ストーリー」としているみたい