『ザ・プロム』を観る

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 これもネットフリックスで観た。

 2020年に配信されたばかりのネットフリックス制作のミュージカル。

ザ・プロム - Wikipedia

 テレビ・ミュージカル『グリー』を手掛けたライアン・マーフィー監督、主演はメリル・ストリーブ、ニコール・キッドマン、ジェームズ・コーデンなど。

 お話はブロードウェイ・ミュージカルで新作ショーが酷評されたベテランミュージカル・スターが美談作りのために、同性愛のため卒業パーティーから排除されるインディアナ州の女子高生を応援に行くというもの。

 テレビ・ミュージカルをそのまま大づくりにしたような内容で正直どこから突っ込んでいいのかわからない。メリル・ストリーブは名女優だけど彼女の年齢でやる話ではないし、正直いうと演技派の彼女がなぜミュージカルに出るのかもわからない。

 ニコール・キッドマンもいい女優だけど、なんで今更ミュージカルに出るのか。彼女もすでに50代、歌って踊るにはとおがたっている。さらにジェームズ・コーデンは「レイト×2ショー with ジェームズ・コーデン」などで知られる人気司会者だけど、ミュージカルは芸達者な彼にも少々荷が重かったか。「レイトショー」の人気企画「カープール・カラオケ」のようにはいかなかったか。

 まずはミュージカルの肝ともいうべき歌と踊りが主役三人にはまずシンドイ。それなりのリハーサルを重ね、さらにカット割り、カメラワークでもたせているが、ダンス、歌が際立っていない。群舞についてはそれなりではあるが際立つ演出もないし、一人一人の技術も際立っていない。

 だいたいにおいてメイン・テーマともいうべきLGBTへの偏見、差別とミュージカルという歌って踊って楽しくが両立していないようにも思った。この映画のテーマ、卒業パーティーにパートナーと一緒に出たいという女子高校生の素朴な思いとそれを阻害する偏見、保守的な風習、そういうものがミュージカルによって訴求力が失われているように感じた。

 このテーマだったら普通にドラマで描けばいい。少し奇をてらった演出をすれば、コメディとしても成立するとも思う。例えば60年代の社会派コメディ『招かれざる客』みたいな風にだ。しかしこれはミュージカルにしてはいけないように思った。

 ミュージカルが大作化、社会問題や主義主張を取り込むことでつまらないものになったみたいなことを語っていたのは和田誠だったか。和田は山田宏一との対談集『たかが映画じゃないか』でこんな風に話している。

ミュージカルも大型スクリーン時代になるとさ、もちろん好ましいものもあるんだけど、全体の傾向としては大作主義っていうのかな、舞台のミュージカルを、大監督がさ、シリアス・ドラマを得意としてた大監督が撮るようになってつまんなくなったんだね。「オクラホマ」がフレッド・ジンネマンだろ。「野郎どもと女たち」がマンキーウィッツ、「南太平洋」がジョシュア・ローガン、「回転木馬」がヘンリー・キング、「ボギーとペス」がプレミンジャー、「ウエスト・サイド・ストーリー」と「サウンド・オブ・ミュージック」がロバート・ワイズで、ウィリアム・ワイラーが「ファニー・ガール」と。それぞれ立派な作品にしてくれたには違いないんだけど、立派も結構ですがもっと楽しいのを観せてちょうだい、というのが俺の気持ね。とくに「ウエスト・サイド-」の大成功はさ、ミュージカルには主義主張が盛り込まれていないといけないみたいな印象を、若いファンやこれからミュージカルを作ろうという人たちに与えちゃったんじゃないかね

『たかが映画じゃない』 P51