藝大美術館の後、時間もあったので西洋美術館に行くことにした。こちらは企画展「人と自然のダイアローグ」が9月11日に終わったばかりで常設展のみである。もっともたいていの場合、西美は常設展目当てに行っているのでなにも問題はない。前回7月7日に行っているけど、その時にも常設展だけ観ている。
藝大の「日本美術をひも解く」に比べると圧倒的に空いていて、なんだかほっとする。といってもウィークデイの割にはけっこう人が入っているようにも思ったけど。
ここのところは通信教育で西洋美術を学習しているので、教科書で出てきた画家やジャンルの作例を確認することが多くなっている。こういうのは美術館での鑑賞の王道を行っているような気もする。
いつものように気になった作品をいくつか。
キャプションによるとパン・デル・アメン(1596-1631)は17世紀にスペイン・マドリードで活躍した画家でボデゴンと呼ばれる17世紀スペイン独自の静物画を代表する画家だとか。
ボデゴン
酒屋(ボデガの軒下(ボデゴン)に由来したスペイン独自の名称で、静物画あるいは台所や食卓の情景を描いた風俗画をさす。「厨房画」。木製の台に置かれた陶器といった質素な表現から宗教的主題と組み合わせたもの(ベラスケス《マルタの家のキリスト》などもあり、17世紀から18世紀にかけてスペインで大流行し、応接室や廊下、食堂に飾られた。
『西洋技術史 造形篇Ⅱ 盛期ルネサンスから十九世紀末まで』(藝術学舎)
ボデゴンを得意とした画家としては、セビーリャ派の「修道士像の画家」として名をあげたフランシスコ・デ・スルバラン(1598-1664)も少数のすぐれた静物画を描いているという。何度かここでも言及したけど、西洋美術館ではドミニク会修道士を描いたこの作品がある。
この絵は大好きな作品の一つ。カルド・ドルチ(1616-1687)は時代的にはバロック画家と分類されるようだ。いわれてみればこの陰影表現もカラヴァッジョの影響ありというべきなんだろうか。アップにしてみても、筆触をまったく感じさせないある種のすべすべ感がある。至高の美っていう感じ。
夜の画家といわれるラ・トゥールはフランス・ロレーヌ地方で活躍した。図録やいくつかの文献によれば、ラ・トゥールはイタリアに赴いた形跡はないものの、オランダのカラヴァッジェスキの影響を受けて、カラヴァッジョの明暗法などの様式を習得したといわれている。フランス・バロック期、カラヴァッジョ様式伝播の作例という。カラヴァッジョの明暗法が劇的であるのに対して、ラ・トゥールのそれは静謐で禁欲的な内省を描き出しているという。たしかにカラヴァッジョのような仰々しさはなく、静的(スタティックス)という言葉が似あっている。
スペイン・バレンシア出身のジュゼペ・デ・リベーラ(1591-1652)は、10代デイタリアに渡りローマでカラヴァッジョの影響を受け、その後は当時スペイン領だった王領ナポリで宮廷画家として活躍した。
この人の作品では《えび足の少年》など、貧しき者、足の悪い少年への慈悲ある眼差しなどを感じさせる作品が有名。そういう点では、少し後のセビーリャ派ムリーリョと似通ったものを感じる。ナポリで活躍したリベーラとセビーリャのムリーリョに接点があったのかどうかはちょっと判らないけれど。
ちなみに西洋美術館ではジュゼペ・デ・リベーラだが、美術書などではもっぱらフセペ・デ・リベーラと表記されることが多い。ウィキペディアではホセ・デ・リベーラだしイタリア語的にはジュゼッペ・リベーラだとか。学者、訳者の拘りなんだろうけど、こういうのって統一できないものだろうか。
レオン・ボナ(1833-1922)は当時フランスのアカデミスムの代表的な画家でエコール・デ・ボザールの教授、学長を務めた。彼の下で学んだ画家は多数おり、カイユボット、ロートレック、ブラック、デュフィらがいる。また1880年に渡仏した五姓田義松もレオン・ボナに学んでいる。
この絵はとにかく上手いというか、構図、表現などもう完璧。肖像画の模範例といっていい作品だと思う。実は今回一番気に入ったのはこの作品かもしれない。
先日、パナソニック汐留美術館でキース・ヴァン・ドンゲンの回顧展を観たこともあるのでこの作品も。もともとこれ大好きな作品だが、マチエールとかに注目するとけっこう凄いなと思ったりもする。西洋美術館はいつ行っても楽しい発見、新しい発見がある。