花見見物の途中でヤオコー川越美術館に入ることにする。
新河岸川沿いの桜を見に来ると決めたときに、この美術館に行こうとなんとなく思っていた。ここに来るのは2020年の6月以来となる。
東文研の画家データーベースを参考にして、三栖右嗣のプロフィールを見ていたのだが、もともと藝大で安井曾太郎の教室に学んだとある。今回、美術館に掲示してある略歴を見ていると1972年にアンドリュー・ワイエスを訪ねているという記載がある。この画家はしだれ桜の絢爛豪華な美しい絵を描く一方で、自身の母親のやせ細った裸体をリアルに描いたりという厳しいリアリズムを追求する人でもある。そのへんのリアリズムはワイエスのアメリカン・リアリズムの影響なのかもしれない。
また風景画においては、前景に静物などを置きそれを強調するような、浮世絵によくある近像型構図的な作品も多い。これは府中市美術館で去年夏に開催された『映えるNIPPON 江戸~昭和名所を描く』展で三栖右嗣の作品が展示されていた。「小笠原父島から南島・母島を望む」という作品で、手前に果物を大きく描き、後景に美しい海の景色を描いたものだった。これは日光美術館所蔵というのもちょっと意外は風に思った。今回、それとほぼ同じような作品が展示してあった。三栖右嗣はかなり気に入った構図と風景だったのかもしれない。これは沖縄の海を題材にした沖縄シリーズの一作だとか。
同じ近像型構図的な作品ではこの作品も印象的。
これはパステル画なのだが、パステル特有の華やかな色彩はなく、枯れた向日葵の褪せた感じがが描かれている。
北欧の海景画を思わせるような雰囲気だが、キッツォ爺さんのモデルは千葉の漁師で名前の「吉宗(きっそう」からの呼び名だとか。このへんはワイエスの影響もあるかもしれない。
素晴らしい作品だと思う。どこか写実というよりもロマン主義のような劇的な、どこか寓意をもったような雰囲気も漂っている。
そしてお約束的に、三栖右嗣のおそらくこの美術館での目玉というべきか、多分一番人気のある作品。
美術館の外の川沿いのソメイヨシノ。美術館の中には美しいしだれ桜。この作品はこの時期にこそ観るにふさわしいかもしれない。