キース・ヴァン・ドンゲン展を観る (9月5日)

キース・ヴァン・ドンゲン展 | パナソニック汐留美術館 Panasonic Shiodome Museum of Art | Panasonic

 キース・ヴァン・ドンゲンは割と好きな画家の一人。エコール・ド・パリ派かつフォーヴィスム的な色彩と独特なデフォルメされた人物像などが特徴的。エコール・ド・パリの画家の中では、モイズ・キスリングと共に比較的早くから画業で成功した人。この人の作品を意識して観るようになったのは、ポーラ美術館だったか。

 今回の回顧展は日本では22年ぶりの開催だという。この人の画風というと、都市生活、お洒落、モード、そんな言葉が似合いそうだ。極端な細身でショートカットの女性というのも完全なデフォルメかというと、1920年のヨーロッパやアメリカではそういうスタイルの女性が闊歩していた。この展覧会ではそうした1920年代をレザネフォル(狂乱の時代)と呼んでいる。そしてアメリカでは同じく狂乱の時代(Roaring Twenties)という。そうあのチャールストンとフラッパー・ガール、禁酒法下のバカ騒ぎの時代だ。

 F.L.・アレンが名著『オンリー・イエスタディ』で活写したアメリカのバカ騒ぎの時代。そしてアメリカとパリを行き来した「失われた時代」の作家スコット・フィッツジェラルドと妻ゼルダが生きた時代だ。個人的にはあまり評価していないがウッディ・アレンが『ミッドナイト・イン・パリ』で描いた夜な夜なの喧騒。まさにあの世界こそキース・ヴァン・ドンゲンが描いたパリの風景というところだろうか。

 1920年代への知識など特になくても、お洒落なキース・ヴァン・ドンゲンの作品を楽しめるのは間違いない。でもちょっとだけそうした知識があるとこの画家やエコール・ド・パリの作品群はより興味をもって接することができるかもしれない。キース・ヴァン・ドンゲン、キスリング、ピカソ、ダリ、フィッツジェラルドヘミングウェイらが深夜までバカ騒ぎする中にはひょっとすると藤田嗣治や田中保もいたかもしれない。

 キース・ヴァン・ドンゲンはキャリアを日刊紙のイラスト・レポーターや風刺新聞、雑誌の挿絵の仕事から出発した。当時のそうしたイラストがだいたいそうだったように、ドンゲンのイラストもどことなくロートレック風である。

《突風》                《通りの情景》

 そしてトレードマークともいうべきデフォルトされた細身の女性たち。

《楽しみ》 キース・ヴァン・ドンゲン 1914年

《女曲馬師(またはエドメ・デイヴィス嬢)》 キース・ヴァン・ドンゲン 1920-25年

《ドゥルイイー指揮官夫人の肖像》キース・ヴァン・ドンゲン 1926年

 そしてより写実的な肖像画

《夫人の肖像》 キース・ヴァン・ドンゲン 

《緑のスカーフ》キース・ヴァン・ドンゲン 1950年

 キース・ヴァン・ドンゲン(1887-1968)は91歳で亡くなった。画家としては長命で1968年といえば、我々からすれば近代史というよりも現代史の範疇だ。同時期に活躍した画家で彼より長生きだったのはピカソ(1881-1973)91歳、シャガール(1887-1985)98歳あたりか。キース・ヴァン・ドンゲンが現代史、同時代の作家ということを改めて思うのが、彼のモデルにフランスのグラマー女優ブリジット・バルドーがいることだろうか。

 今回の展覧会での出品はないがドンゲンが描いたバルドーはネットで拾ったものだがこんな感じである。

 あとキース・ヴァン・ドンゲンのポートレイトはゲティ・イメージに約60点あり、けっこう楽しめる。

キースヴァンドンゲン ストックフォトと画像 - Getty Images

 この回顧展、会期は9月25日まで。出来ればもう一度行きたいがちょっと難しいかも。しかしパナソニック留美術館は水曜休館で他の美術館が軒並み休みの月曜日にやっている。お勧めの展覧会だ。