追憶の新橋 (9月5日)

 昨日は三カ月ぶりの都内通院。血圧はけっこう改善されてきているが、血糖値は逆に悪くなっている。「夏は運動できなかったですか。涼しくなったら少し運動された方がいいですね」とかれこれ10年来の主治医の女医さんにやんわり叱られる。そういうものだ。

 10時半くらいに解放されてさてとどうするかと。月曜日は軒並み美術館は休館だが、調べると六本木の国立新美術館、汐留のパナソニックが開いているらしい。パナソニックはキース・ヴァン・ドンゲンの回顧展なのでこっちを選ぶ。

 お茶の水から新橋まではJRで。新橋の街は久々。たしか7~8年前の役員会の暑気払いで来て以来か。もう随分と前のことだ。朝、なにも食べずに来たので腹減っていたから、何か食べようかと思った。新橋というとすぐに頭に浮かぶのは実は吉野家。たしか2号店が新橋駅前、今のSL広場のすぐ近くにあった。高校生の頃だったか、たまに有楽町近辺で映画を観た後に一人で入ったような記憶がある。

 大学に入った頃はけっこうチェーン展開され始めて新卒もとるようになっていた。ただし1980年、ちょうど自分らが大学卒業の年に一度吉野家は倒産している。身近で入社したやつはいなかったけど、就職決まった連中にはなんとなく同情したな。あの年はけっこう就職難だったし、だからこそ大卒で外食産業なんてそれまで考えられなかったところに行く新卒生がけっこういたのだから。

 その後吉野家セゾングループのもとで再建をすすめ、2000年には一部上場を果たし、今や日本を代表する外食産業大手になっている。いろいろと隔世の感がある。

 ということでSL広場に降りてみるが近くに吉野家らしき店はない。そういえばあの2号店はとっくの昔に閉店したんだったか。さらにいえば新橋はよく父親に連れられて食事を取った記憶がある。たいてい後楽園で野球を観たあとに新橋に立ち寄った。多分、安い店が多かったからだろうか。父は当然酒飲んだし、自分はなにを食べたんだろうか。なにか鳥料理の店で鳥わさなんかを食べた記憶がある。あの店には何度も行ったのだが、店名が思い出せない。多分、もうとっくに店閉めちゃったのだろう。

 あとこれも店名とか覚えていないが、最初に回転寿司に入ったのも新橋だった。多分小学生だったと思うのだが、物珍しくて何皿も取って食べた。父にいわせれば、これは寿司ではないという思いもあっただろうが、やはり珍しさからか自分はろくに食べもせず、酒飲んでいたように覚えている。

 いずれももう50年以上前のことである。もう街の雰囲気はすっかり変わってしまったが、それでも烏森のあたりにはなんとなく昭和の雰囲気が一部残っているのかもしれない。

 暑さもありあまり歩く気にもならず、SL広場で立ち止まって一瞬だけ昔のことが思い出されただけのことである。結局、目についた小諸そばに入ってかつ丼ともり蕎麦のセットを食した。小諸そばは40年近く前にお茶の水の当時勤めていた会社の近くに立ち食いの店があって、よくそこで夜食にかき揚げ蕎麦を食べたが、それはまた別の話。

 そして汐留口側に回る。こっちは昭和的景色が様変わりした近未来な街に生まれ変わっている。特に地図とかチェックしないでもなんとなく感覚的にパナソニック留美術館目指して歩く。そこは一度、車で妻と子どもと三人で訪れている。たしかギュスターヴ・モローの展覧会だっただろうか。