「チェンジリング」

チェンジリング [DVD]
チェンジリング (2008年の映画) - Wikipedia
TSUYAで新作をレンタルしてきた。劇場公開中から傑作の呼び声が高く評判になっていた。昨日の深夜なぜか家族三人で観る。多分12時過ぎくらいから観始めた。観終わったのは3時過ぎだったか。深夜に映画を観ていると、かなりの確率で寝てしまう。ダレ場の多い映画だとてきめんだ。事実金曜日の夜、娘と二人で同じくレンタルで借りてきた「ロジャー・ラビット」を観ていた。10時から観始めたのに案の定寝てしまった、私のほうが。10数年前に劇場で観た企画モノっぽいお笑いモノだが、眠さが勝った。娘はというと、すっかり宵っ張りで「ロジャー・ラビット」も当然のごとく全部観たそうな。
そしてこの「チェンジリン」である。とりあえず私もまったく寝ることなく観終えた。ときどき娘のほうをチラチラ見ていたのだが、ソファに横になっていても目はテレビ画面にしっかり見入っている。なんつうかウィークエンドの深夜の夜更かし、DVD鑑賞がすっかり習慣化してしまった、ある種日本一宵っ張りの小学生である。その横では妻がソファに横たわって寝ている。たぶん映画開始30分以内に落ちた模様だ。
とりあえず私に関していえば、まったく寝入ることなく観終えたということだけで、スクリーンならぬテレビ画面に集中できただけで、その映画の密度、質の高さのバロメーターみたいな感じもしている。そう、「チェンジリン」は秀作である。やや暗めの落ち着いた映像はすでに監督クリント・イーストウッドのスタイルとして定着した感じがある。全体を通じてもあの陰鬱なる名作「ミリオンダラー・ベイビー」と同質のものがあるとは思った。
そしてなによりもこの映画で秀でているのは、誘拐された子どもを取り戻すべく真相に迫っていくシングル・マザーを演じたアンジェリーナ・ジョリーの演技力だろう。この人というと例の「トゥームレイダー」のマッチョな主人公ララ・クロフト役が有名。私なんかもアクション派という先入観がある。でも24歳の時に「17歳のカルテ」でオスカー助演女優賞をとっているくらいだから若手演技派みたいな部分もあるのだろう。最初に知ったのはたぶん「ボーン・コレクター」の頃だろう。でもやっぱり「トゥームレイダー」の印象が強くて。
だからだろうかこの「チェンジリング」での彼女を観ていると、この役のためにゲキ痩せしているせいもあるのだろうが、もうほとんど別人のような感じさえしないでもない。子どもを失った母親の絶望、落胆、そして強靭な精神力でロス市警の腐敗した体質に迫っていく女性を演じきっている。いやお見事。
今回、ウィキとかでググっていくと、けっこう面白い事実とかもあって楽しいね。この人、大スター、美人女優なのに、けっこう体のあちこちにタトゥーを入れているとか。普通やばいだろうとか思うけど、今日ではそういうのも個性の一つということになるのだろうかね。さらにこれは多分聞いていたような気もするのだが、この人あのジョン・ヴォイトの娘さんなんだね。ジョン・ヴォイトといえば「真夜中のカーボーイ」や「帰郷」の名優さん。70年代ニューシネマの役者さんの子どもが立派な大人で主役張っちゃう時代なんだということに、なんか時代とか、もろもろ感じ入ることも多いな。
アンジェリーナ・ジョリー - Wikipedia
さてと戻ろう「チェンジリング」に。映画は1920年代のロスアンゼルスで、誘拐された子どもが戻ってくるのだけど、自分の子じゃない。それを主張すると警察は自分たちのミスが露見するのを隠蔽するため母親を精神病院に入れてしまう。そして事件は子どもを狙った連続誘拐事件へと連鎖してみたいなお話。高々80年くらい前だというのに、ロス市警のやりたい放題。警察に異議申し立てをした市民を精神病院に強制入院させる荒っぽさに、そんなアホなという気もしないでもないのだが、これが総て実際にあった話だというからすごい。
思えばロス市警の腐敗ぶりとかはジェイムズ・エルロイの小説とかその映画化された「L.A.コンフィデンシャル」あたりでも取り上げられていたっけ。あの時代背景は確か1950年代だったから、ある意味ずっとこんな感じでやっていますみたいなことだったのかもしれん。
そしてこの映画の監督、もはや名匠の誉れ高きクリント・イーストウッド。毎回しみじみとした秀作を作ってくれる。かって「ローハイド」の若造ロディを演じていたあの大根役者が、ハリウッドを代表する名監督になるなんて、誰が予想できただろうとさえ思う。
それにしてもこの人もはや79歳になるのだね。この映画を撮った2008年には、この映画の他に「グラントリノ」で監督と主演もやっている。78歳で1年に2本の作品を演出するバイタリティにある種感服せざるを得ない。凄すぎるの一語だね。しかも映画の質がまったく落ちていないのだから。まあ映画は集団芸術であるから、相当に優秀なスタッフが揃っているのだろうとも推測する。イーストウッド組自体の質の高さが証明されているということだろう。
しかし何にも増して70年代後半になってからも毎年のように秀作を発表し続けるクリント・イーストウッドの凄さに本当に改めて感心せざるを得ない。まあまあちょっと褒めすぎかもしれんかな、この映画に関してはという気もしないでもないけど。でもイーストウッドの年齢とかそういうもろもろを含めて、この映画は評判通りの傑作だとは思う。ただしあまり晴々とすることもないし、さりとて例の「ミリオンダラー〜」のように陰惨鬱々的でもないけどね。