ヤオコー川越美術館

 免許更新の後、カミさんの何処かへ連れて行け要求をかわしつつ昼食をどこで取るかみたいなことで、結局川越まで戻ってきた。予定ではこの後、都内まで行って子どもの晴れ着を預けてある呉服屋まで取りに行くことになっている。

 卒業式ーといっても新型コロナの影響でいわゆる卒業式は中止になり、学位授与式だけをこじんまりと行うことになったのだが、そのために自前の着物とレンタルの袴を着て行った。その着付けに訪れて帰りに寄って着物をクリーニングに出した。たしか三週間くらい前に連絡をもらっていたのだけど、コロナのことがあったので落ち着いたら伺うということにしていた。さすがに三週間も経っているし、自粛解除もされているのでいい加減引き取らないといけないみたいに思っていた。

 免許センターの後にすぐに呉服店に行ってもよかったのだが、まずは昼食と思った。でとにかく川越まで来たときにナビに美術館のマーク、よく見るとヤオコー川越美術館とある。場所的には氷川神社のすぐ裏くらいのところ。このへんは川越市立美術館や博物館があり、いずれもまだ行ったことがない。ヤオコー美術館もその存在は知ってはいた。確かどこかの店舗にポスターが貼ってあったのを見たとかそういう記憶だ。

 それでナビを頼りに行ってみる。川っぷちの狭い道を行き、途中でこれも狭い橋を渡ると目の前にある。ちょっとオシャレば建物だが規模は小さい。館内に入ってからわかったのだが、著名な建築家伊東豊雄の設計だとか。

 スーパーヤオコーのいわゆるメセナの一環で創業120年を記念して造られたという。 館内は落ち着いた感じで2つの陳列室のカフェの3室である。そして陳列してあるのは埼玉に縁の画家三栖右嗣のもの。なんでもヤオコーの創業者がこの画家の作品を収集していて付き合いもあったということらしい。

 三栖右嗣という画家のことを自分は知らない。なのでまったく予備知識なく作品を観ることになる。

三栖右嗣 :: 東文研アーカイブデータベース

 安井曽太郎の弟子筋で写実表現を追求した画家、ふむふむ。1927年生で2012年没、割と最近まで活躍した画家、活動期間は1950年代からということで、現代画家ということになる。しかし表現的にはモダニズムというよりはまったくの近代絵画的。ミレーらの自然主義印象派の筆致に近い、そして何よりも構図がきわめて安定的で、黄金律を律儀に守っている。かといって古臭い絵かというとそういうこともなく、古典的な手法、枠の中で斬新な表現や感性をきちんと表現し得ているようにも思った。そして詩情に溢れた絵が多いとも感じた。

 展示してある画家の説明の中に、アメリカ旅行中にワイエスを訪ね、その影響から自然を切り取るリアリズムの手法を学んだということが解説されている。確かにワイエス的な自然の切り取り、その影響下にあるような絵もいくつかあるにはある。しかしワイエスのような冷徹なリアリズムとは異種なものがこの画家にはある。なんていうんだろう、この画家の対象への眼差しは生暖かい、もとい暖かい。どことなく優しさや慈愛に満ちたものがある、月並みにいえば優しさみたいな部分か。

 そうこの画家は写実的であっても対象への眼差しには冷たい、対象を突き放したような部分がないのだ。ハードボイルドとは真逆な心性というか。まあそのへんを甘っちょろいと感じるかどうかでこの画家への評価は別れるかもしれない。まあまったく予備知識なしで適当に思っただけなのでかなり突拍子もないこと言ってるようにも思うけど。

 でも、自分はこの画家の作品、嫌いじゃない。いやむしろけっこう気に入ったかもしれない。例えばこの子どもたちを描いた作品には、優しい眼差しを感じる部分がある。

f:id:tomzt:20200614230739j:plain
f:id:tomzt:20200614230733j:plain

 そして初期の作品らしいが、この作品なんかは安井曽太郎というよりも、どことなく小磯良平の雰囲気を感じたりもする。構図といい、椅子に座った女性の雰囲気を際立たせた表現とかけっこう気に入っている。

f:id:tomzt:20200614230748j:plain

室内

 そして多分、この美術館でのこの画家の多分一番人気のある大作がこれ。素晴らしい作品だとは思う。

f:id:tomzt:20200614230743j:plain

爛漫

 こじんまりとして落ち着いた小さな美術館である。滞在時間は1時間か多分それ以下か。とはいえゆっくりと、じっくりと絵に向き合える場所だ。家から多分一番近い美術館でもあるので、これからも何度も訪れることになると思う。こういう場所が比較的近くにあるのは嬉しいことだと思う。