近代美術館(MOMAT)の常設展示も5月17日から新しくなっている。
前回来たのは4月で、鏑木清方展の後半だっただろうか。
4階のハイライトも展示替えされている。
広島晃甫 (1889-1951)は初めて目にする画家だ。徳島県出身で、東京美術学校の日本画科を卒業後白馬会で洋画を習ったという。その後萬鉄五郎らとアブサント会を興す。「青衣の女」は大正8年第1回帝展で特選となっている。
ネット検索ではあまり情報はなく、誰に師事したということもわからない。装飾的でモダンな表現を感じさせる。
小倉遊亀の「浴女」はその一が有名で、MOMATでも何度も観ているけど、このその二はずいぶんと久しぶりである。記録を辿ると2017年にその一、その二が並列展示されているのを観ているので、それ以来、5年ぶりということになるだろか。
なんだかリヒターの重い重い抽象画でお腹いっぱいになっていたので、こうした日本画に触れると思いのほか気分が楽になるような。
国吉康雄はアメリカに移住し成功した画家だ。なんとなく田中保と同じ括り考えることが多い。戦前の日本人画家で海外で成功したということでは、藤田嗣治、田中保、国吉康雄が代表ということなんだろう。
この作品は国吉が大事にしていたというベン・シャーンによる反ファシズムポスター「我々フランス労働者は警告する」が破られたことから描かれたという説もあるのだとか。しかしよく見てみるとどうもそう簡単な作品ではない。画面上部に飛んでいる女性はサーカスの曲芸師のようだ。このモチーフは国吉作品によく現れるという。
さらに女性の背後にはポスターに描かれた手があるが、女性の被る帽子(?)らしきものもよく見ると手のようにも思える。まるでポスターの手と帽子のような手によって、女性は今まさに捕まえられるようとしている。それはファシズムによる個の圧殺(?)。なんとも不思議な絵である。
この絵については以下のサイトの記述が詳しい。謎解きということではないが、絵の鑑賞のためのヒントが沢山ある。
国吉康雄《誰かが私のポスターを破った》──アンニュイそして希望「市川政憲」:アート・アーカイブ探求|美術館・アート情報 artscape (閲覧:20200626)
これらの戦争画には戦争の悲劇がなにも描かれていない。小磯良平は戦争を題材にしてもいつものように美しい小磯良平の絵を描いているだけだ。小磯良平の戦争画を何点かMOMATで観ているけれど、どれも悲惨な戦争の実相などどこにもない。戦争という非日常の中の一瞬を切り取っただけ。しかも美しく。
そして藤田のこの絵はノモンハン事件を題材にし、藤田が戦争画にのめり込む契機となった作品だとか。ノモンハン事件は日本軍が大敗をきっした武力衝突であり、実際には凄まじい戦闘が繰り広げられた。そのことを藤田は伝え聞いていて、なおかつこのような美しい絵を描いている。遠近法を駆使した歴史画だ。ここには殺し合いの悲惨さはどこにもない。美しい風景の中でたんたんと戦闘する兵士たちの姿が写実的に描かれている。でもそれはけっしてリアルなものではない。画家の想像力によって再構成されたリアルのようなものである。
安定感と緊張感。リヒターを観たという体験の後だったからか、実はこの絵が一番気に入った。今回の常設展のベスト。
写真の部屋ではセバスチャン・サルガードの作品がまとめて展示してあった。
そして現代絵画の間には新収蔵品として会田誠のこの作品が。
新収蔵品だということだ。会田誠の天才性と変態性が如実に現れている。戦争、美少女、日本と韓国。なぜチマチョゴリとミニスカセーラー服なんだろう。いろいろ物議ありそうなネタだが、そもそもミニスカセーラー服は民族衣装か、的な突っ込みはいらんのだろうな。