ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出

映画『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』 公式サイト TOP
 エリザベス女王が王女時代、妹のマーガレット王女と一緒に戦勝記念日の夜、外出を許されてロンドンの街で一晩を過ごしたという逸話から冒険あり、淡い恋ありのお伽話を仕立て上げたコメディ映画。これも前から観たかった映画。実在の高貴な女王をモデルというか、まんま使って楽しい物語を作ってしまうのところ素晴らしいと思う。そしてなによりもこれは「ローマの休日」へのオマージュでもあるかもしれないし、それとなくエリザベスの父親、国王ジョージを主人公にした「英国王のスピーチ」の後日譚めいているところもある。
 映画はいろんなところで突っ込みどころ満載だし、映画の質としてはまあそこそこのコメディ。賞を取るような名作の類でもない。ただしこの映画にはある種の青春映画として良質となる条件を有している。それはかの村上春樹の名言でもあるのだけど、「誰も死なない、男と女が寝ない」というものだ。コメディで戦勝記念日の一夜のどんちゃん騒ぎが舞台だ、誰も死なない。そして主人公が王室の高貴なヒロインだ。けっしてセックスを連想させるようなことは、ゆめゆめあってはならない。そういうある種の制約の中で、楽しく、そして主人公の成長ありで、たいへん好ましい映画となっていると思う。
 特にいいのは主演のサラ・ガトン。カナダの女優らしいが、もともと顔立ちが美しい。この映画の中では王女の凛とした雰囲気を良く出していた。この映画は彼女が主演を務めたことで、ほぼ7割方成功だったかなと思う。
 逆にマーガレット王女を演じたベル・パウリーは、ほとんどコメディエンヌみたいな感じで好演は好演なんだが、バカっぽ過ぎてこれはこれでちょっと笑えた。後にスキャンダルに晒されながらも奔放な人生を歩んだマーガレットの生涯を多少、暗示させるような感じも伺えた。
 全体としてはB級感が漂うが、自分的にはこの映画嫌いじゃない。むしろ好きな方かなとも思う。王家のプリンセスの庶民との淡い恋や世間とのずれとか、シチュエーションコメディの王道だし、その背後には極めて穏当な倫理的配慮もなされている。子どもを連れて観るにはうってつけの映画かもしれない。とはいえもはやうちの子はこういうのを一緒に観てくれそうにないが。
 しかし「英国王のスピーチ」にしろ、この映画にしろ、実在の王家の人物をそのまま映画の主人公にしてしまうところに、英国王室の開かれた感じが出ていて、これはこれでけっこう好きである。自分自身は君主制とかいうのは基本反対ではあるけれど。
 日本でもこういう映画が作れないかなと思う。マコ、カコみたいな絶対的なキャラクターも存在することなんだし。まあできれば60年代初頭、軽井沢を舞台にした避暑地の恋みたいな映画が作れないものかと思う。スクリューボウル的ドタバタありのコメディ仕立てで最後は思い切りハッピーエンドで、沿道大群衆の中、馬車に乗ったヒーロー、ヒロインがどちらともなく手を握り合って微笑みあって・・・・。