オリンピア・デュカキスと『マグノリアの花たち』

 オリンピア・デュカキスが亡くなったようだ。

米俳優オリンピア・デュカキスさん死去「月の輝く夜に」:朝日新聞デジタル

 銀髪で理知的な夫人、おばあさんという印象が強い女優。記憶に残っているのはアカデミー助演女優賞を取った『月の輝く夜に』と『マグノリアの花たち』の二本だろうか。受賞した翌年にアメリカ大統領選の民主党候補者だったマイケル・デュカキスの従妹だということも報じられのも記憶している。『月の輝く夜に』の時の年齢は56歳、年齢よりも老けた感じで、今ならローラ・ダーンみたいな感じだろうか。

 個人的には彼女の役柄としては『マグノリアの花たち』の方が好きかもしれない。というのでDVDの在庫をひっくり返したら出てきたので観てみる。このDVDはTSUTAYAのレンタル流れで多分500円くらいで買ったものだ。

マグノリアの花たち [DVD]

マグノリアの花たち [DVD]

  • 発売日: 2010/08/25
  • メディア: DVD
 

 マグノリアの花たち - Wikipedia

 もともとはロバート・ハーリングの戯曲でアメリカ南部の田舎町の美容室での密室劇らしい。美容師と客のおしゃべりだけで進行するものとか。それをハーバート・ロスが演出、レイ・スタークが制作した、ちょっと洒落た涙あり、笑いありのコメディにしたてあげた一作。

 美容師の経営者のドリー・パートン、訳ありの従業員ダリル・ハンナ、客のサリー・フィールドオリンピア・デュカキスと町中の嫌われ者であるシャーリー・マクレーンの五人が主な出演者。さらに糖尿病をわずらいながら命をかけて出産、子育てを続ける サリー・フィールドの娘役を若々しいジュリア・ロバーツが演じた。

 ちなみ今のいままでドリー・パートンはドリー・バートンだと思っていた。1980年に『9時から5時まで』で彼女を知ってからだから、40年勘違いしていた。まあそういうものだ。

 よくできたお話で、多分10年ぶりくらいだったけど、面白く観ることができた。この映画はもう演技合戦みたいな感じで、ハーバート・ロスはそれぞれの女優の特徴を活かした演出をしている。この映画ではジュリア・ロバーツがオスカー助演女優賞に初ノミネートされたらしい。個人的にはサリー・フィールドドリー・パートンのどちらかは主演女優賞に、オリンピア・デュカキス、シャーリー・マクレーンダリル・ハンナ助演女優賞に輝いてもおかしくないくらいの出来だったと思う。

 オリンピア・デュカキスは元町長の妻で金持ちの未亡人役、途中で町のラジオ局を買うくらいなので相当な資産家。それに対してシャーリー・マクレーンは同じように金持ちの未亡人なんだが、クレーマーおばさんのようで町中から嫌われているが、まったくめげずに生きている。この二人の未亡人がなぜか親友同士という設定が面白かった。とくにデュカキスは人当りも良く誰とも仲良しになれるうえ、シャーリー・マクレーンにも日頃からきつい嫌味を言ったりもする。それでいてなぜか二人はウマがあうというところが、二人の掛け合いの演技で見事に表現されていた。

 映画の最終版、娘を亡くして悲嘆にくれるサリー・フィールドが葬儀の後に、みんなの前で泣きながら悲しみを誰かにぶつけたい、誰かを殴りたいと激高する。するとデュカキスがこの人を殴りなさいとシャーリー・マクレーンをサリーの前に押し出す。この悲喜劇的なシーンがもう最高だった。

www.youtube.com

 オリンピア・デュカキス89歳。ご冥福を祈ります。

 ちなみに『マグノリアの花たち』はルイジアナ州でチンカピンという架空の町を舞台にしている。ディープサウス的で黒人もほとんど出てこない。確かジュリア・ロバーツの結婚式に何人か裕福層な黒人がいたような気もする。ルイジアナ州メキシコ湾に面して北にアーカンソー、東にミシシッピー、西にテキサスというまさにディープサウスな土地である。州都はバトンルージュだが最大の都市はニューオリンズ

f:id:tomzt:20210507140056p:plain

 そういう南部の田舎町が舞台ということでいえば、ここの40年後はまちがいなくトランプの王国みたいなところとなる。映画の中ではほとんど善人ばかりだが、彼らはみな共和党支持者であり、穏健だが自助を原則とする保守主義者たちばかり。この映画に出てくる子どもたちが、今の分断されたアメリカの一方の側を形成しているということもちょっと2021年的な見方ということになるかもしれない。