これも何日か前にNetflixで観た。Netflix独占配信でもある。しかし『プロム』のメリル・ストリープといい、この映画のトム・ハンクスという、超一級スターの新作がNetflix独占配信映画というのも、なんか時代が変わったなという気がする。
南北戦争後、南部の退役軍人の初老の男がインディアンに育てられた白人の少女を拾い、親族に届けるというお話。少女の両親は殺されていて当然言葉がしゃべることが出来ない。男と少女は道中、じょじょに心の距離を縮めていく。
男の仕事は町から町へと渡り歩き、人を集めて新聞を読み聞かせる。原題は『News of the World』=世界のニュースである。しかし『この茫漠たる荒野で』というタイトルを良しとする人も多いだろうが、自分としてはあまりにも内容と乖離した翻案のようにも思えてしまう。
南北戦争後の1870年代、西部開拓時代にあっては、人々は日々の生活に追われており、また電信や鉄道もまだ普及していないため、情報はほとんど入ってこない。やや開けた町では新聞が一部発行されていたが、そうした新聞を買って読む人も少ないだろう。そこで本作の主人公のような町から町へと流れながら、ただ新聞の面白うそうな記事を読むだけの仕事というのが成立したということだ。
しかしこの時代、西部にこうした読み聞かせを行う職業にどのくらいの人がついていたのだろう。例えば役者が戯曲や詩の一節を酒場で朗読するというのは、いくつかの西部劇であったように思う。リンカーンを暗殺した俳優もそうした地方巡回をしていたと聞いたこともある。そういえば『荒野の決闘』にもそんな役者が出てきていた。たしかセリフを忘れた役者の手助けをドク・ホリデイが行う。それによってドク・ホリデイがインテリであることが判るという、そんなシーンだったか。
トム・ハンクス扮するニュースの読み聞かせ人は、銃をもたず丸腰で西部を旅している。インディアンや盗賊が跋扈する時代にそれはほとんど自殺行為に等しい。敗北した南軍の将校であり、故郷に残した妻に先立たれた男は、どこか厭世的であり丸腰で荒野を旅するのは彼の中での死への願望があるからなのかもしれない。
インディアンとの生活に慣れた白人少女は最初男に反発するが、じょじょに心を通わせ、男から新聞を読んでもらいながら言葉を覚えていく。そして町での男の朗読の手伝いをして木戸銭を集めたりもする。
異文化の交流、コミュニケーションの重要性、そして少数民族や黒人への差別、様々なものを内包する点でこの映画は単なる昔ながらの西部劇とは異質な、いかにも現代における西部劇となっている。
映画の質は高く、ダレることなく観終えることができた。ただ一点難をいえば、各シークエンスごとに荒野を俯瞰で捉えるカットが挿入される。ドローンを使った空撮なのだが、これいるかみたいな感じがする。しかもシークエンスごとに挿入するだけにいささか鼻につくものがあった。
とはいえなかなかにクオリティの高い映画であり異色西部劇としてかなりの高得点だ。しかしニュースの配達人=新聞の読み聞かせ人という職業があったなんて、なんとも面白いものだ。