『太陽を盗んだ男』を久々に観た

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 昨日夜というか本日未明か、税務署行く用事もあるのでそろそろ寝るかと自室に行ったのだが、ちょっとだけNetflixのコンテンツを見ていたら、『太陽を盗んだ男』を見つけて思わずそのまま観てしまった。

https://www.netflix.com/title/81318400

太陽を盗んだ男 - Wikipedia

 自分的にはずっと日本映画のベスト1の映画である。1979年作、長谷川和彦監督はその3年前に『青春の殺人者』でデビューし、この映画でメジャー進出したが、興行成績が振るわず以後監督作品が一作もない。

 ストーリーの奇抜さ、当時人気歌手であった沢田研二=ジュリーと菅原文太の共演という話題性、テンポ溢れるアクションなどヒットしない要因は少なく、当時から諸々の圧力があったという噂話もあった。それはひとえに、東海村原子力発電所を襲撃してプルトニウムを奪った主人公が、個人で原爆を作り国家を脅迫するという衝撃的なストーリーにあった。原子力政策を国是とするこの国にあって、この映画は様々な禁忌を犯したのだろう。原子力ムラ総出でこの映画を葬り去った。

 製作の伊地智啓はこの映画の翌翌々年に『翔んだカップル』のヒットで復活するが、長谷川和彦は以後映画製作や脚本という裏方は勤めたが、自らメガホンをとることはなかった。こういう映画を撮ったら抹殺されるという象徴的存在として以後50年を生きているのだ。

 ストーリーは孤独な中学教師が、単独で東海村原子力発電所を襲撃してプルトニウムを強奪。アパートの一室で金属プルトニスムを精製し原子爆弾を作り上げる。彼は国家を脅迫するが、何を要求していいのかわからない。彼が手始めに国に要求するのが、いつもいいところで終わってしまうプロ野球中継の延長だった。

 その後、ラジオのディスクジョッキーに電話してリスナーから要求項目を募る。ディスクジョッキーが提案するのは当時、麻薬常習を理由に入国を拒否されていたローリング・ストーンズの来日公演。そして原爆製造の過程で物品を購入するために利用したサラ金返済のために5億円を要求していく。

 主演の沢田研二は本当に好演している。男の色気があり、孤独な中学教師が虚無的なテロリストと化していく様を見事に演じ切っている。そしてその対極として男性性をむんむんに発出する菅原文太。この二人の疑似的なセクシャルな関係性が横軸となり、さらに二人の間で揺れ動くディスクジョッキー役の池上季実子がまたいい女の雰囲気を醸し出している。

 ヌーベルバーグの傑作『勝手にしやがれ』など様々な映画へのオマージュを想起させるカットをしのばせ、この映画は単なる荒唐無稽なアクション映画を超えて、映画ファンを狂気させる魅力溢れた作品でもある。しかし短期間の上映のあと打ち切られ、以後は話題にはなってもなかなか日の目を見ることもないままである。

 DVDこそ発売されたが、自分的の拙い記憶ではTSUTAYAのレンタル棚でもあまり見かけることもなく、おそらくテレビでの放映は一度もない。3.11の後、この映画や『東京原発』など原発関連の映画の再公開を希望したが、この国は見事にそれらをスルーしている。結局、原子力ムラの影響力はこの国の細部にまで浸透しており、反原発を標榜するようなコンテンツはけっしてメジャーでは人の目に触れることができない仕組みが連綿と続いてるいるのだ。

 結局、この映画を明け方近くまできっちり観終えてしまった。42年前の作品ながらダレルことなく観ることができる。自分にとってこの映画は邦画ベスト1であることを再確認した。


The Man Who Stole the Sun (1979) - Trailer

 

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