伊地智啓が亡くなった

 新聞の死亡欄に小さく載っていた。懐かしい名前である。

 そう伊地智啓といえばキティフィルムであり、『太陽を盗んだ男』のプロデューサーだった。ゴジこと長谷川和彦が撮った二本の傑作のうちの一作。沢田研二菅原文太という二大スターを使い、原発原子力爆弾をテーマにすえた傑作アクション映画だったが興行的に大失敗し、その後いまをもっても長谷川和彦は映画を撮ることができていない。今思えば、おそらく原子力ムラからの強烈な圧力があったのかもしれない。残念ながらアマゾンプライムでもTSUTAYAでも見つけることができない幻の映画でもある。

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  そして伊地智啓といえば薬師丸ひろ子、尾見としのり、石原真理子という若手アイドルを使い、相米慎二が初監督を務めた『翔んだカップル』を思い出す。あの映画はキティフィルムでも最大のヒット作だった。この企画に相米慎二を推薦したのは、どうもゴジらしいということも何かで読んだ。

 のちに相米信二のある種のスタイルともなるあの長回しワンシーン・ワンカットは、演技的に稚拙な薬師丸ひろ子と尾見としのり、石原真理子のぎこちなさと相まって、そのまま15~16歳の少年少女たちのぎこちない生き方をうまく表出していた。ぎこちない演技=ぎこちない子どもたちは、みずみずしく青春のある種の場面を切り取っていたように思う。

 『翔んだカップル』は自分にとっても思い入れのある映画だった。1980年製作の映画なので、多分大学を卒業した年頃だと思う。その頃はおそらく一番映画を観ていた時代だ。大学4年から社会人になっての数年は、1年に100本程度は新作を中心に観ていたはずだ。今のようにレンタルや配信もない時代、劇場だけで100本を観るのはけっこう大変だった。まあ土日などには今ではほとんどない二番館、三番館での三本立てなんてのもあったので、そうやって本数を稼いでいたのかもしれない。

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 その頃に『翔んだカップル』に出会い、多分劇場だけで10回くらいは観ていると思う。それからビデオが出た頃にはダビングして、何十回と観た。今思えばなんであんなにこの映画にのめりこんだのか。今でも一応DVDを持ってはいるが、ジイさんとなった心性では、おそらくこの映画を観続けることは難しいのではないかと思う。そういう映画が実はけっこう増えている。青臭い青春映画系にはそういうのが多い。美しいジェニファー・オニールが主演をしている甘く切ない『思い出の夏』も多分今はきついかもしれない。途中で止めてしまうのではないかという思いが先に立つので、今は怖くて観ることができない。そういう映画だ。

 伊地智啓は自分にとっては『太陽を盗んだ男』と『翔んだカップル』の二本をプロデュースした人として記憶している。ご冥福を祈ります。