マイケル・カコヤニス死去

http://mainichi.jp/select/person/news/20110726k0000m060151000c.html
たぶん相当の映画好きじゃないと、この人のことなんかわからないだろうなとも思う。ギリシア人の映画監督ということでいえば、「Z」を撮ったコスタ・ガヴラスあたりが一番有名なんだろうが、カコヤニスは年齢的にも先輩格にあたるのだろう。
代表作はなんといっても「その男ゾルバ」あたりか。名優アンソニー・クイン演じる粗野でバイタリティあふれるゾルバという男は、たいそう魅力的だった。クインの代表作は数多あるのだが、ゾルバ、ザンパーノ(「道」)といった粗野な男タイプ、あるいは「サンタ・ビットリアの秘密」の村長だったか、ああいうユーモラスな役柄も忘れられない。さらには男臭さをムンムンにしたデキル男みたいな役柄、「ナバロンの要塞」なんかもよく覚えているな。
クインの話ではない、カコヤニスである。私がよく覚えているのは「魚が出てきた日」だ。原爆と放射能物質を積んだ米軍機が地中海に墜落する。原爆は海中に沈むが、放射能物質は近くのリゾート地の島に落下する。それを拾うのは無知な羊飼い。墜落した米軍機の乗組員は必死に放射能物質を探すのだが。
全編風刺が効いたユーモラスなタッチで展開するコメディ映画調なのだが、驚愕のラストシーンがという内容の映画である。たぶんこの映画、劇場では観ていない。何回か観ているのだがいずれもテレビ放映だったと思う。けっこう楽しめたし、ある意味このてのブラック・ユーモア系はストライクゾーンだった。
出演者では唯一、キャンディス・バーゲンが出ているのだけ憶えている。70年代のキャンディス・バーゲンはえらく人気があったっけ。当時でいえば、「卒業」「明日に向かって撃て」のキャサリン・ロスと人気を二分するハリウッド若手女優みたいな感じだったのでは。この二人にさらにジャックリーン・ビセットを加えれば、とりあえず60年代後半から70年代前半のハリウッド人気若手女優トップスリーみたいな感じになるのかな。リンゼイ・ワグナーとかも加えたいところだけど。
昔話になるとどんどん脱線するな。まあ、いつものことではあるが。「魚の出てきた日」である。当時は「核の脅威」「核戦争の脅威」みたいなものが、グローバルな形で人類の抱える問題だった。米ソが対立している状況だったし、世界中のあちこちで局地戦的な代理戦争も起きていた。そういう時代背景の中での映画の一つということなんだろう。
しかし今では別の意味で衝撃的な内容をも含んでいる。もちろんフクシマ以後の日本にとってはである。放射性物質による汚染が、いつもいつも「ただちに健康に問題とはならない」のかどうか。どこかの東大教授がいうように、プルトニウムは、経口摂取しても、ようは食べても害にならないのかどうか。この映画の内容は、放射線科学においてはあまりにも非科学的なのかもしれない。
おそらくフクシマが俎上にのる日本的現在にあっては、まずテレビ放映だの、劇場公開などはありえない映画なんだろうと思う。一義的には風評被害につながるという理由で。まあ根底では、とにかく原発にネガティブになりかねない情報はことごとく黙殺させるというのが、日本の政官財、マスコミあげて推し進める方針のようなのだから。

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