「愛と哀しみのボレロ」

愛と哀しみのボレロ [DVD]

愛と哀しみのボレロ [DVD]

  • ロベール・オッセン
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TSUTAYAの例の良品発掘シリーズでレンタルされていたので借りてきた。
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懐かしい映画である。1981年公開作だからゆうに30年も前の映画である。ただし、私の映画時計、音楽時計みたいな感覚からいうと実は1980年代の映画というのは比較的新しいほうに分類されていたりもする。
公開時の印象はというとやはりこの映画を観た100人が100人同じ感想になるのではないかとは思うが、ジョルジュ・ドンのボレロは圧巻であるということ。さらに映画を観た50人がたぶん口を揃えていうだろうけど長すぎる。3時間超えるんだもん、ちょっとしんどいとは思う。自室で寛いでDVDで観ている分にはいいよ。白状するが途中で二回ほど落ちた。でも今この映画を劇場で観るとなるとけっこう拷問かなと思わないでもない。尻が痛むと思う。
公開時にもこの映画の冗長性についてはかなり非難の的になった。テーマの割りに演出が軽やかなというか、致命的に軽いクロード・ルルーシュだけに、けっこう酷評されていたんじゃないかと思う。
映画は1930年代から60年代にかけて、パリ、モスクワ、ベルリン、ニューヨークを中心に音楽に人生を捧ぎながら時代の流れに押し流されていく四つの家族を描いていくのだが。同じ役者が父、母と息子、娘を演じることや、それぞれの家族のドラマがテンポよくカットバックし挿入されていくので、正直わかりずらい。
役者はそこそこに良い演技をしている、特に欧州組は。でも、アメリカ組はちょっとな〜という感じもしないでもない。予算とかいろいろあるのだろうが、ジャズ楽団の指揮者をジェームス・カーンにやらせるのはもっての他だろうし、ジェラルディン・チャップリンは歌姫には絶対に見えない。こういうのが典型的なミス・キャストっていうのだろうな。カーンもジェラルディン・チャップリンもけっして嫌いな役者じゃないだけにとても残念だ。
そもそもに、こういう現代史、戦争に奔流される人々の悲劇といったテーマを音楽を通じて描くという、大変難しい設定というかモチーフなりが、クロード・ルルーシュには荷が重すぎたのは明らかなのだ。もともとCM出身の映像作家さんだ。瞬間瞬間を綺麗な映像で切り取るのが得意な人だ。はっきりいうけど、背伸びし過ぎたのかなとは思う。
なんかこうマイナスなことばかり言っている。じゃあ、この映画あなたは嫌いなのと問われると、いやいや、実は大好きな映画の一つであったりもする。そして長くDVD化を待ち望んでいた作品でもある。別にジョルジュ・ドンのボレロが見たくてということではなくてである。それならばそういうDVDを探します。
私がこの作品が好きなのは、音楽をメインテーマにした作品だからだと思う。そしてクロード・ルルーシュは大好きな監督でもある。「男と女」「白い恋人たち」「流れ者」などなど。綺麗な映像とともに音楽をうまいこと取り込むことの名手でもある。
そのルルーシュがこういう重厚なテーマ手がけたこと、なぜ、たぶん撮りたかったのだろう。それで十分じゃないか。少々長すぎるけど、けっしてしんど過ぎるわけでもない。ルルーシュなら許すみたいな贔屓の引き倒しでもある。
そしてさらにいえばこの映画、音楽が効果的である。フランシス・レイミシェル・ルグランが共同で音楽を担当しているのだが、たぶん推測的にいえば、レイは歌曲を提供し、全体の監修というか音楽監督的な形で取り組んだのはルグランではないかと思う。ルグランのミュージカル的センスは天才である。その天才の匠が随所に感じられる。劇中で演じられるミュージカル・シーン(救急車や燃え盛る車、果てはヘリコプターまで出現するダンスナンバー)などは、まさに圧巻でさえある。カメラワークもルルーシュらしいダイナミズムがあり、音楽もまた素晴らしい。
いい音楽と美しい映像、たぶんこれだけである程度この映画は成功している。さらにいえば、登場人物たちは著名な芸術家たちをモデルにしている。ヌレエフ、カラヤンエディット・ピアフグレン・ミラージュディ・ガーランド。そうあまり指摘されることはないようだけど、ジェラディン・チャップリン演じるアメリカ人シンガーはけっこうな確率でジュディ・ガーランドとかぶるように思う。なのでなおさらちょっと違うぞと思わないでもないのだが。
そういう著名人をモデルとしているだけに、挿入されるエピソードがほろっとさせたり、にやりとさせられたりもする。
そういう意味でいえば、クラシックやバレー、シャンソン、ジャズなどにそこそこ精通していると、より楽しめる映画なのかもしれないとも思う。そうこの映画の楽しむには、観る側のバックボーンみたいなものも要求されるのかもしれない。とはいえなんの予備知識なくても、普通にジョルジュ・ドンのボレロに感動するだろうし、ニコール・ガルシアの美しさにほれぼれするかもしれない。彼女はアヌーク・エーメによく似ているな〜。
あと、この映画を単なるドラマ、それも音楽に比重をおいたドラマと捉えるか、あるいはミュージカルの亜流と捉えるかでちょっと見方が違ってくるかなとは単なる思いつきで思ったりもする。好きなミュージカルは40〜50年代のMGMミュージカルだ。苦悩や生死といったドラマ性を廃した、楽しい楽しいボーイ・ミーツ・ガール。ダンスナンバーと歌で心のときめきを表す。それからすると50年代から60年代のミュージカルは社会性とかを取り入れて、ちょっと違う方向にいってしまった。「ウェスト・サイド・ストーリー」や「サウンド・オブ・ミュージック」の流れだな。そして70年代には「ヘアー」あたりを経てミュージカルは一度は死んでしまったようにメイン・ストリームから退いた。
そういう流れというか史観にそっていえば、80年代入った時期にルルーシュは彼なりの解釈でミュージカルの復権を試みた。そういうちょっとした実験的な映画だったんじゃないかと。まあほんと思いつきですな。
たぶんこれからも何度かこの映画は観ると思う。DVDソフトを買ってしまおうかと思ってもいる。手元においておきたい映画だ。

「人生には二つか三つの物語しかない。しかしそれは幾度も繰り返される。
その度ごとに初めてのような残酷さで」ウィラ・キャザー