アーサー・ロレンツ死去

同じく訃報から。アーサー・ロレンツも死んだらしいね。
http://www.asahi.com/obituaries/update/0506/TKY201105060237.html
といっても、彼の死にどれだけの人が反応するのかどうか疑問ではあるな。長いキャリアを誇るハリウッド、あるいはブロードウェイのシナリオ・ライター。
この人の死に接して最初に思ったこと、「確かこの人ゲイだったよな」ということ。代表作への思いとかそういうことじゃなく、とりあえずゲイ。まあ私の半可通知識なんてそんなものですな。でも、この人がゲイであることはつとに有名ではありました。
91歳、大往生だとは思います。キャリアの割りにはいがいと寡作のようだ。ネットでググると代表作はこんなところか。

ジプシー (1993)<未> 脚本  
愛と喝采の日々 (1977) 脚本/製作  
追憶 (1973) 脚本/原作  
ジプシー (1962) 原作  
ウエスト・サイド物語 (1961) 原作  
悲しみよこんにちは (1957) 脚本  
追想 (1956) 脚本  
魅せられて (1949)<未> 脚本  
ロープ (1948) 脚本

ハリウッド・デビューの第一作目が「ロープ」であるというところに、この人の技巧派というか、技術の確かさをみるような気もするかな。
「ロープ」は当時のメジャー映画としてはおよそ考えられないような実験映画だ。映画の進行とストーリーの進行が時間軸の中でシンクロしている。特に有名なのが、この映画はカット割がない、全編ワンショットだけで作られた映画である。監督はもちろんアルフレッド・ヒチコックである。スタジオだけで、角度やショットを変えながら、全編ワンショットで映画を撮ることの難しさはちょっと想像するだけでも凄いものである。映画の面白さとしては、さらにいえばヒチコック作品としては、並のレベルではあるが、その実験性とか、技術については、脱帽ものの映画でもある。

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もっともこの映画についてヒチコックはあまり満足していないことを、トリフォーとのインタビューであかしている。

そこで、わたしは一本の映画をまるまるワン・カットで撮ってしまうという、じつにばかげたことを思いついた。いまふりかえってみると、ますます、無意味な狂ったアイデアだったという気がしてくるね。というのも、あのようなワン・カット撮影を強行することは、とりもなおさず、ストーリーを真に視覚的に語る秘訣はカット割りとモンタージュにこそあるというわたし自身の方法論を否定することにほかならなかったからなんだよ。
『ヒチコック映画術』P175

話は脱線した。アーサー・ロレンツの話だ。この人については「ウエスト・サイド物語」の原作者として語られることが多いのだが、これはもともと「ロミオとジュリエット」を翻案したもの。やはりこの人といえば「追憶」あたりが代表作といえるのかもしれない。
1940年代から60年代までの時代背景のなかで、ハリウッドでの若き映画人たちの愛憎を描いたメロ・ドラマの古典。シドニー・ポラックの名作。わし鼻のバーバラ・ストライザンドがだんだん綺麗にみえてくる、そんな映画でした。

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他にもいい仕事をしている。「悲しみよこんにちわ」はセシルカットのジーン・セバーグ。ハリウッド清純派のナタリー・ウッドが汚れ役に挑戦した「ジプシー」、「愛と喝采の日々」のシャーリー・マクレーンアン・バンクロフトの演技合戦、などなど。
とにかく映画的記憶を喚起させるいい映画ばかりでした。ロレンツ氏は93歳でしたか。ある意味大往生でしょうか。冥福を祈ります。