「夜の大捜査線」

夜の大捜査線 [DVD]

夜の大捜査線 [DVD]

  • 発売日: 2006/11/24
  • メディア: DVD
またまた映画の話である。もはや生活の大部分が映画になりつつあるような気も。これは20代の前半のある時期以来のことかもしれないな。もっとも当時は、それこそ人生=映画みたいな、えらい思い込み背負って映画観ていた。
当時はさ、一番館、名画座を問わず、観るのは必ず最前列。前列左側から5〜6番目と決めてたりした。なんていうか、「俺の前には誰も座らせない」みたいな意気込みで、スクリーンに対峙していたもんさ。そしていつかスクリーンの向こう側の住人になることなんか、密かに考えていたんだろう。若気の至りっていうやつよ。
現在はというと、とりあえずベッドに半分横たわって、横にハイボールなんかおいて、えらくリラックスして観ている。眠くなればすぐに寝ちゃうし。まあ途中で寝るかどうかが、現在の私にとって良い映画かどうかを計るモノサシになっていたりしてる。途中で中断して寝ちゃう映画は、ブー。とりあえず1時間半とか2時間とか、きちんと最後まで観終えた映画は秀作みたいな感じである。
さてと、「夜の大捜査線」である。60年代の傑作映画の一つである。アメリカ南部での人種差別を背景にした警察モノ。シドニー・ポワチエロッド・スタイガーの演技合戦、監督ノーマン・ジュイソンの職人技みたいな重厚かつテンポのある演出。そういえば以前はこの人のこと、普通にノーマン・ジェイソンと表記、呼んでいたのだが、最近はジュイソンが普通になっているようだ。まあNORMAN JEWISONだから、ジュイソンがあっているんだろう。
華麗なる賭け」「シンシナティ・キッド」などスティーヴ・マックウィーンともよく仕事をしているな。両方とも大好きな映画だ。他にも「ローラボール」「アメリカ上陸作戦」とかも好きだった。そうそう「月の輝く夜に」も楽しい映画だった。生活にややお疲れのおばさん、シェールが許婚の弟にデートに誘われてオペラにいくときにおしゃれすると、もう大変身しちゃう。シェールも上手いんだけど、ああいう女優を美しく描けるところもこの人の技みたいな感じがした。
さらにいえば、ノーマン・ジュイソンはカナダ出身なんだが、名前からして明らかにユダヤ系かなと思わせる。まあ単なるあてずっぽうだけど、だからこそ自身の出自への思い入れみたいな部分もあってだろうか「屋根の上のヴァイオリン弾き」とかを撮っちゃたりもしたのだろうかなどと思ったりもする。コッポラやスコセッシがイタリア系移民の物語をさかんに撮ったりするのと同じなんだろうか。
さてと映画のほうは、もう古典の範疇に入る。黒人差別が根強いミシシッピーの田舎町で起こる殺人事件。たまたまその町に通りかかったシドニー・ポワチエ。彼はフィラデルフィアで殺人課の敏腕刑事である。彼は差別にさらされながら、地元警察に強力して事件を解決していく。
地元警察の署長を演じるのがロッド・スタイガー。やや太目の見るからにたたき上げ、タフな警察官である彼もまた黒人刑事に対して偏見に満ちた対応をしているが、じょじょにポワチエの能力を評価するようになっていく。スタイガーは、人種差別に満ちた南部のタフで保守的な男と、事件を解決することに全力を尽くす警察官としてのプロ魂、そういう二面性を見事に演じきっている。
ラスト、事件を見事解決したポワチエを駅に見送るスタイガーは、それが彼の唯一の感謝のしるしであるかのように、ポワチエのトランク・ケースを持ってやる。最後に別れを交わすとき、お互いに微笑みあう。このときのスタイガーの少し照れたような微笑は、無垢な心の底からのくったくのない笑顔を表出している。見事な演技だ。この笑顔があればこそ、彼がこの映画で、明らかに助演男優的な役周りでありながら、オスカー主演男優賞に輝いたのかもしれない。それくらいこの笑顔は素晴らしかった。
このシーンや、このスタイガーの演技、笑顔は、後にずいぶんといろいろな映画で、あるいは役者が追随しているようにも思う。思えば「戦場のメリークリスマス」のラスト、北野武の名演技もスタイガーにインスパイアされていないかと思わなくもない。
この映画を観るのは、たぶん20数年、あるいは30年ぶりくらいになるかもしれない。しかしかって観た折よりも、より感銘を受ける度合いが強いようにも思う。まあそのくらい完成度の高い、見事な映画だと思う。