ある団地の風景

 午後、兄の家に向かう。昨日見つからなかったインスリンの注射器とかを探すためで、それはすぐに見つかった。その後、昨日兄が洗濯機に放り込んでおいた衣類を洗濯して干す。さらに溜まった書類等を、市役所関係、保険関係、介護関係などに分けて床に置き、クリアファイルに整理した。それから当座必要になりそうな下着類をまとめて、インスリンと一緒にして部屋を出た。

 1階について車まで歩き出すと、カシャンカシャンと金属をたたくような音が上の方でする。そこで見上げると、隣の棟の最上階のベランダで小さな女の子が洗濯物を取り込んでいる光景が目に入った。

 女の子は4歳~5歳くらい。物干し竿にハンガーとかで干してある洗濯物を一枚ずつ取り込もうとしている。背が小さくて衣類に手が届かないので、布団叩きをもって、何度もチャレンジしながらハンガーを一つずつ外して衣類を手にする。そして一枚ずつ部屋の中に持ち込み、また出てきてハンガーの衣類を降ろす。布団たたきがハンガーに当たったときにカシャンカシャンと音がしている。

 親に言われてやっているのか、自分の判断なのか。親が室内にいるのか、それとも一人で留守番しているのか、そういう事情はまったくわからない。でも、女の子はたんたんと一枚ずつ衣類をおろし、その都度部屋の中に持ち込んでいる。えらい子だなと思う反面、こんな小さい子にベランダで衣類を取り込ますのはちょっと酷ではないかと、ちょっと不安なことが頭をよぎる。

 ずっと見ている訳にもいかないので、女の子3枚の衣類を取り込むところで自分は車に向かった。考えてみると女の子が取り込んでいるのは全部小さな子供服で、多分それは自分の服のようだ。自分のものは自分でやる、取り込んで部屋の中で自分でたたむところまで躾けられているのかどうか。あるいは自分の衣類だけをとりこんで、家の中で着替えて遊ぶのかもしれない。わずかな時間、目にした光景だったけれど、いろんなことを思い巡らしてしまった。

 後で思い出すと、女の子はハンガーを降ろして衣類を抱える前に、なんとなく乾いているかなという感じで確認している様子にも見受けられた。小さな女の子の午後のお仕事。彼女にとって、今日がいい1日であって欲しいと願った。