お勤め最終日

 いよいよもって40年間の仕事納めの日が訪れた。

 午前中は会社に寄るが、別に何かすることもない。仕方なく、自室とは別棟で前任者が使っていた部屋にこもり、本日の議事とかのおさらいをする。自分で議案を作り、自分で議事進行シナリオを作り、事業報告書を素読したりとか。

 10時半過ぎに現場に行き、従業員1人1人とちょっとだけ会話をして挨拶。まあこれも恒例のこと。なんだかんだして、少し早いが11時過ぎに会社を後にする。未練的なものはあまりない、いやほとんどない。本は好きだし、扱う商品への愛着はあるけど、同僚や従業員に対しての思い入れはない。なんだろうね、これって。まあ現場ということもあり、あまり本の話とか出来る相手もいなかったし。このへんがこれまで過ごした書店や出版社とはちと違うところかもしれない。

 12時過ぎに都内へ出て、まずは健保の事務所に寄る。事前に書類とかはもらっていたので、退職後の健康保険の継続手続きである。これまで2回ほど窓口で話を聞いていて、引き続き健保での被保険者となる場合は、2年間の任意継続と特別退職者医療制度の二つの制度がある。最初はいずれも国保に加入するのとほぼ同額だということだった。ただし、初年度は現在の所得水準で保険料が決められる国保よりは健保の方が若干安くなるということだった。そのうえで当初は任意継続を勧められたのだが、二回目に行った時に、年金の受給資格があることを確認していただいたため、特別退職の方がいいという話だった。

 特別退職者医療制度での加入申請は、年金受給証明書、住民票、申請書、念書、さらに保険料の銀行引き落とし書類を提出する。事前に書いておいたので、手続きはスムーズに終了した。これで無収入、あるいは少額の年金だけが収入という身分でありながら、そこそこの保険料を徴収されるという淋しい身が確定した。まあそういうものだ。

 その後、取引先の各部署に挨拶回り。いちおうゴディバのクッキーを三つも買ってもっていった。会社にもパートさんや女性従業員には同じくゴディバのチョコサブレだかを渡している。えらい出品だが、まあ最後だしいいか。

 営業部の副部長と長いこと話をして、最後に在籍している営業社員全員の前で簡単に挨拶。その後はトップの方と30分くらい面談した。

 株主総会はもう10年くらい出ているし、議長としても7回もやっている。基本シャンシャンだし、少数を前にして行うのだけど、それでもやっぱり緊張する部分はある。まあこういうのに変に慣れない方がいいのだろうとは思ったりもする。ハレとケのハレみたいなものだから。

 すべての議案を承認可決した後に、議長として最後ということもあり少しだけ所感を述べて総会は終了した。

 その後は監査役の方が慰労をしてくれた。自分ともう一人退任する役員の三名で日本橋で割と早い時間から飲んだ。三人で多分一升くらいか。ということは一番飲む自分がおそらく六合くらい飲んだことになるのか。料理も美味しかったし、日本橋の橋梁や高速道路の下の日本橋川の水面を見ながら楽しいひと時を過ごした。

 帰り、まだ9時台だったが、さすがに少々飲み過ぎた部分もありまっすぐに帰宅した。なんだかんだいいながら、勤労者生活の最後の日々が終わった。