100万ドルの血斗

100万ドルの血斗 [DVD]

100万ドルの血斗 [DVD]

  • 発売日: 2010/11/26
  • メディア: DVD
 

 BSで録音したのを観た。どんな映画かほとんど記憶がなく、ほとんどジョン・ウェイン主演映画というだけで観た。主演ジョン・ウェイン、制作が長男のマイケル・ウェイン、助演で次男のパトリック・ウェインとさらに末っ子のイーサン・ウェインとジョン・ウェイン一家総出演。舞台は1900年代初頭の西部で幌馬車や汽車だけでなく、自動車やオートバイまで出てくる。ライフルには望遠の照準装置までついていて夜間でも狙撃ができたりする。

 さらには時代的にはマカロニ・ウェスタンやニューシネマがハリウッドを席巻していたためか、そうした要素も取り入れていて、映画冒頭での盗賊による襲撃シーンではサム・ペキンパーを彷彿とさせるような残酷な殺戮シーンもある。

 とはいえ様々な要素を盛り込みながらも、それとジョン・ウェインの時代がかった旧態以前とした振る舞いには大きなギャップがあり、脚本的にも未消化。映画的には失敗作の部類だとは思う。とはいえ70年代にあっては、もう老体ジョン・ウェインに多くを求めるよりは、動いてそれなりにアクションもこなしてくれれば御の字という生暖かい優しい目で観てしまうので、多く部分に目を瞑る。そう、デュークが70年代に入っても西部劇を演じてくれればそれでいいという、そういうタイプの映画だ。

 この時代のジョン・ウェインはというと60年代はヒット作に恵まれず、ニューシネマの台頭とともに過去の人的イメージも強かった。『アラモ』や『グリーン・ベレー』などの製作、主演からタカ派、好戦的な老人というレッテルを張られることも多かった。そんな中、1969年に主演したがさつでアル中の老保安官ルースター・コグハーンが当たり役となった『勇気ある追跡』で念願のオスカーを手にした。それからは老いたガンマンや牧場主、現代劇での刑事役など様々な役に挑戦した。

 そういう時期に一家で総出で出演したやや現代風味を取り入れた作品が、この『100万ドルの血斗』ということになる。そしてそれが全ての映画だ。内容的には特に言及するところはない。突っ込みどころも多い。もうこれはただただ老ジョン・ウェインの姿を眺めるだけでいいという作品である。とはいえこの映画、当時のアメリカでは興行収入もベスト10に入るなどしており、失敗作という訳ではないようだ。当時、ベトナム戦争にも疲れたアメリカ社会では、勝手の西部劇の英雄の勇姿を優しく受けいれたのかもしれない。

 この映画は初めて観たのだが、観ているうちになんとなくいろいろ思い出したこともある。映画の中でジョン・ウェインの次男役を演じ、オートバイに乗り照準器付ライフルを使っているのはクリス・ミッチャム。あのロバート・ミッチャムの長男である。中学生の頃、映画雑誌『スクリーン』や『ロードショー』を愛読していたのだが、その中にジョン・ウェインの新作映画としてこの作品が紹介されていた。その中にジョン・ウェインの息子たちとともにロバート・ミッチャムの息子クリス・ミッチャムが抜擢されているという記述があったことを思い出したりもした。

 本当にどうでもいいことを、けっこう覚えているものだ。クリス・ミッチャムはその後も『リオ・ロボ』にも出ているので、けっこうジョン・ウェインのお気に入りだったのかもしれない。あるいはロバート・ミッチャムから頼まれたりもしたのかもしれない。「デューク、息子を使ってくれないか。頼むよ」みたいな感じで。

 70年代、いっぱしの映画少年だった自分は、ジョン・ウェインの映画だしこの映画も観てみたいとは思ったと思う。『チザム』も嫌いじゃなかったし、老いたりとはいえジョン・ウェインは本当に好きだったからだ。彼のベストな映画は40年代後半から50年代にかけてだと思う。60年代は『リバティ・バランスを射った男』あたりが最後の輝きだったように思う。それを思うとこの『100万ドルの血斗』は残念な映画の部類に入るだろうし、多分もう一度観ることはないかもしれない。とはいえ腐ってもジョン・ウェインなのである。