コンチネンタル

 ここのところ妙に古いミュージカル映画が観たくなってDVDコレクションを漁っている。その中でRKO時代のフレッド・アステアジンジャー・ロジャースの作品をだいたい週に一本ずつくらい観ている。

 アステア・ロジャースの作品はもちろん知っていたけど、なかなか観る機会がなかた。『ザッツ・エンターテイメント』は基本的にMGMミュージカルの集大成だったから、RKOという独立映画会社によるミュージカルは紹介されていなかったし、戦前の古い映画なので名画座でかかることもなかった。

 確か80年代のどこかで、渋谷でアステア・ロジャースのミュージカルが集中して公開されたことがあった。それを嬉々として当時つきあっていたガールフレンドと観に行った。『コンチネンタル』、『トップハット』、『有頂天時代』あたりだったか。そこでほぼ初めて全盛期のアステアのダンスと可愛くて、陽気でちょっと勝気なアメリカンガール、ジンジャー・ロジャースに魅了された。もうすでに30年以上の昔のことだ。

 その後、DVD化されたのを購入して時々観たりもしたのだが、次第に生活に追われお気楽ミュージカルは遠のいていった。もちろん劇場で映画を観る機会も減ってしまったし、もし観るとしても家族で観れる話題作みたいなものばかりだ。ミュージカルを深夜に観るなんてこともほとんどなかった。

 そんなこんなでいたのだが、最近になってアステア・ロジャース映画が観たいなと衝動的にDVDコレクションから引っ張り出して最初に観たのがこれである。

コンチネンタル HDマスター [DVD]

コンチネンタル HDマスター [DVD]

  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: DVD
 

 1934年の作品、記念すべきアステア・ロジャースの初主演映画である。監督はその後このシリーズを定番監督となるマーク・サンドリッチ。脇役でもアステア・ロジャース映画の常連となるエドワード・エヴァレット・ホートン、エリック・ロウズ、エリック・ブロアが初顔合わせとなる。 

 原題は『ゲイ・ディヴォース』(陽気な離婚)、もともとはフレッド・アステアが姉アデール・アステアとのコンビでロンドンでヒットした舞台ミュージカルを映画に翻案したものだ。当時のアメリカの倫理観からすると「陽気な離婚」は幾分かは不道徳と思われるのではと製作段階でひともめしたという話もあった。

 この映画のヒットにより、アステア・ロジャースのミュージカルはシリーズ化し、フレッド・アステアはミュージカル界のスーパースターとして君臨することになる。この映画製作の時に彼は34歳。ロンドンの舞台では姉とのコンビでスターではあったが、実質的にはこれがアメリカでの初主演映画である。銀幕デビューとしては実は遅咲きだったともいえる。

 一方のジンジャー・ロジャースはこの時23歳。ダンサーとしての下積みはあったが、女優としては売り出し中といったところで、この映画のヒットとアステア・ロジャースのミュージカルを続けることで大スターの道をたどった。コンビ解消後の40年には『恋愛手帖』で念願のアカデミー主演女優賞を受賞。戦後は主に舞台で活躍した。

 そう、この映画のヒットによりフレッド・アステアジンジャー・ロジャースも大スターとなり、成功をすることができた、そういう記念すべき作品だ。

 このシリーズ独特の好きあう男女のすれ違い。ダンスと歌による恋愛表現。アステアはダンサー役が多いが、意外と映画はモラル的でキス・シーンもなく純愛路線である。そう、すべてはダンスによって恋愛感情を高めていくという仕掛けなのだ。

 この映画ではコール・ポーターのスタンダード・ナンバー「ナイト&ディ」が披露される。もともと舞台版のこのミュージカルのためにコール・ポーターが書いた曲である。そもそもこの曲はコール・ポーターフレッド・アステアの音域に合わせて書いたという。ボブ・トーマスによるアステアの自伝『アステア ザ・ダンサー』の中にこんなエピソードがある。

 『ゲイ・ディヴォース』のリハーサルは、フレッドがニューヨークに戻るとすぐに始められた。彼は、コール・ポーターが書き上げた音楽を聞き、「ナイト・アンド・デイ」以外には満足した。

「これは歌えないよ」と彼は言った。

「できるはずだ」ポーターは答えた。「君の声に合わせて作ったのだから」

 ポーターが、歌い手の声に合わせて歌を作ったのは、それが初めてだった。アステアの音域を知っており、ポーターはまず、メロディを書いたのだった。それは、歌詞から始めるという彼のいつものやり方とは逆だった。

『アステア ザ・ダンサー』P100

  かの名曲「ナイト・アンド・ディ』はこのようにして生まれた。そして美しいダンスシーンとしてスクリーンを飾った。


www.youtube.com

 

 そしてこの映画の白眉ともいうべき「ザ・コンチネンタル」のダンスシーン。マーク・サンドリッチはこの曲のためのシーンに実に17分以上も割いている。曲はコン・コンラッドとハープ・マジソンが書いている。この曲はアカデミー主題歌賞に輝き、映画は大ヒットし破産寸前だったRKOを盛り返すきっかけとなった。


www.youtube.com