兄を退院させる

 朝、兄の入院している病院から電話がかかってきて起こされる。

 病棟の看護師からなのだが、なんでも兄の体にセンサーをつけたいという。といういのは昨日、兄は勝手に病院から抜け出して近くのコンビニに買い物に行ったという。さらに、同じ病棟の患者の体を揺すったりしたともいう。

 病室はナースステーションの真ん前にあるのだが、そこにはかなり重症な高齢者ばかりがいる。いわゆる寝たきりの高齢者で、そのうちの二人は四六時中うなり声や奇声をあげている。もう一人は時々、うるさいと怒鳴り声をあげる。けっこうシビアな病室である。一昨日、最初に兄のところへ行った時にも、この病室はかなりヤバいと思った。とはいえ、入院は短く、多分土曜日(今日)には退院となるはずだということで、兄には我慢してもらうつもりでいた。

 起き抜けで体があまり反応していなかったが、その病室の状態についてはそういう認識もあったので、別の病室に移るとかできないのかというと、兄は目を離すと外出したりするので、ナースステーションから近いところに置いておく必要があるという。それではと、特に治療も受けていないはずなので、今日退院のはずだったのではと切り出すと、脳外の先生が連休明けまで出てこないので、その判断がないと退院できないという。そこで、とにかく今日そちらに行くのと兄とも話すといってとりあえず電話を切った。

 また面倒なことになったと思いつつも、とにかくどうするかとしばし思案し、とにかくもう治療らしい治療を受けていないのでなんとか退院させようと考えた。

 兄はこの日透析があったので、それが終わる頃を見計らって病院に行く。まず看護師にご迷惑をかけていると詫びをいれる。兄はナースステーション近くの病室から別の病室に移されていた。看護師は兄の体にセンサーをつけることを了承してくれと言ったが、少しだけ兄と話しをしてからその後でと話を中断させた。

 兄とは病室ではなく談話コーナーで話をした。そこで、とにかく他の患者さんの体を揺すったりするのはもっての外であるとした。兄は、二日間我慢したが四六時中うなり声をあげているので、眠れないし耐えきれなかったとか答えてきた。それからとにかく退院できるように頼んでみるがいいかと聞くと、兄もそろそろ自宅に帰りたいと言う。

 そこでナースステーションの看護師に、このままご迷惑をかけ続けるのも困るし、とにかく他の患者さんに手を出すなどもっての外なので、今日とにかく退院させて欲しいと話した。そのうえで連休明け火曜には透析でお世話になるので、その折に脳外の先生の診断を受けてはとも。

 特に治療も必要がないうえ、トラブルメーカーというか、とにかく困った患者の範疇にあるせいか、看護師たちも退院させる方向で動いてくれるようで、とにかく先生と連絡をとる言ってくれた。それからしばらくすると先生から許可が出たということで急遽退院ということになり、事務方もすぐ動いてくれて退院の運びとなった。

 それから兄の身支度をさせてから家に連れて帰った。家ではずっと片付けていなかった台所周りをキレイにしてやり、部屋に掃除機をかけて、書類とかを少し整理してから家に帰った。なんかもうとてつもない徒労感が体全体に纏わりついている感じがした。